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整形外科 外科 リハビリテーション科
<下肢のしびれ> *ニューロパチーは整形外科疾患との鑑別診断として記載しますが、当院では治療等は行っておりません。

 下肢に限局したしびれは、血流障害と神経障害に分かれます。

 神経障害:末梢神経障害、神経根障害、脊髄障害
 血管障害:ASO,バージャー病、腹部大動脈瘤、大動脈解離、静脈のうっ滞

 まず血流障害の有無をチェック。そのあと神経障害を診ます。

<血流障害の評価>

 1.下肢虚血
 病歴:動脈硬化リスク、血管性跛行
 身体所見:下肢皮膚温、色、足背動脈の拍動、腹部や鼠径部の血管雑音
 ・急性発症:腹部大動脈解離、大動脈瘤、下肢動脈血栓閉塞・・・・検査:下肢・腹部血管エコー、造影CT
 ・慢性経過:末梢動脈疾患、腹部動脈瘤・・・・検査:ABI、下肢・腹部血管エコー

 2.下肢うっ血
 病歴:慢性経過の下腿浮腫、むずむず脚症候群、夜間のこむら返り、下肢の発赤、疼痛
 身体所見:下腿浮腫、表在性静脈怒張、色素沈着、皮膚潰瘍形成、下腿の発赤、圧痛
・下肢静脈不全、肢端紅痛症・・・検査:下肢静脈エコー、血液検査

<障害部位別鑑別診断>

 ・靴下・手袋型の感覚障害、つま先の背屈障害:末梢神経症、下肢から。運動障害はまれ。

 ・単一神経支配領域の障害、またはその組み合わせ:単神経炎(血管炎、絞扼性神経障害)
  総腓骨神経:下腿外側に感覚障害、足関節背屈障害(鶏歩、ドロップフット)
  脛骨神経:踵部の感覚障害、足関節底屈障害、内反障害(外側鉤足)
  深腓骨神経:第1趾と第2趾の趾間部、甲部に限局した感覚障害

 ・デルマトーム、筋節に沿った感覚障害、筋力低下:神経根または脊髄障害
  膀胱直腸障害、下肢深部腱反射亢進、体幹レベルでの感覚障害、脊髄交叉所見、痙性麻痺、神経性間欠跛行、歩行失調
   →なし 神経根症状:腰椎椎間板ヘルニア、坐骨神経痛など:感覚低下は少ない。(支配がオーバーラップ)
   →あり 脊髄疾患:腰部脊柱管狭窄症、脊椎腫瘍、脊髄梗塞、脱髄性疾患など

 *注 脊髄を圧迫するか根部を圧迫するか、その疾患の状態によって異なります。椎間板ヘルニアなど占拠性病変は、根性、脊髄性いずれの症状もあり得ます。
 *注 高齢者は、血管性、神経性が併発していることもあり、慎重な見極めが必要です。

 *注 肢端紅痛症:上下肢末梢の灼熱感、発赤、皮膚温の上昇。夜間に憎悪。55%が下肢のみ。特発性は、Naチャンネルをコードする遺伝子異常、続発性は、血液疾患(真性多血症、慢性骨髄性白血病など)、膠原病(SEl、RA)、薬剤性、感染症、腫瘍性。
 
<Vesperの呪い〜右心不全と腰部脊柱管狭窄症>

 右心不全があると臥位で脊柱管の内圧が上がり、腰部脊柱管狭窄症の症状が悪化します。就寝後に疼痛のために寝られなくなります。これを「Vesperの呪い」と名付けられています。心不全の指標である脳性Na利尿ペプチド(BNP)が上昇します。右心不全の治療を行うことにより、症状は改善します。

 <多発神経炎との鑑別>

 多発神経炎は人口の2-3%にみられ、55歳以上では8%を占めます。原因としては、糖尿病が最も多く、アルコール49%、アルコール4%、尿毒症4%、遺伝性ニューロパチー4%、薬物・毒物3%、甲状腺機能低下症2%、悪性腫瘍2%、M蛋白血症2%、血管炎による虚血2%、AIDP4%、CIDP3%があります。

 *AIDP:急性炎症性脱髄性多発根神経炎
 *CIDP:慢性炎症性脱髄性多発根神経炎

 慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)は、2ヶ月以上にわたり進行性または再発性の経過をとり、四肢の筋力低下やしびれ感をきたす末梢神経の疾患(神経炎)です。

 鑑別のための検査:血算、赤沈、CRP、ビタミンB12(正常下限であればホモシステインも測定)、葉酸、FBS,腎機能、肝機能、甲状腺機能、免疫電気泳動、尿定性、尿中B-J蛋白、病歴により薬物・毒物の確認。神経伝導検査(多発性神経炎では、軸索損傷のパターンをとる。)

 *原因は複数であることも多い。糖尿病患者の末梢神経障害100人のうち36人は糖尿病と関係のない疾患であった。
 *中年男性のアルコール症ではビタミンB12欠乏症も注意。喫煙率も高く、肺がんによる腫瘍随伴症状にも気をつけます。
 
   多発性神経炎を引き起こしている疾患の鑑別は、急性の進行なのか、慢性の進行なのかで切り分けると判断しやすい。特発性多発神経炎は年単位で慢性に発症し、足先から左右対象に始まり、感覚障害優位となります。(糖尿病性、アルコール性などの代謝性疾患も同様の経過が多い。)週単位〜月単位で進行する場合、左右非対称の場合、発症時より上肢に症状がある場合、運動障害が中心の場合、感覚性失調がある場合は、ビタミンB12欠乏症、血管炎、膠原病、悪性腫瘍、M蛋白血症などによる多発性神経炎を考えます。 

 ・急性発症:血管炎、Guillain-Barre症候群、ビタミンB1・B12欠乏症、腫瘍随伴症候群
 ・非常に緩徐:遺伝性
 ・左右非対称性:血管炎による多発単神経炎、AIDP,CIDP、悪性腫瘍
 ・近位筋の脱力を伴う:AIDP,CIDP
 ・non-lwngth dependent polyneuropathy:Sjogren症候群
 ・筋力低下が中心:運動ニューロン病(ALS)、多巣性運動ニューロパチー、Guillain-Barre症候群、CIDP、ポルフィリン症、鉛中毒、シャルコー・マリー・トゥース病、
 ・激しい痛み・自律神経障害:small fiber neuropathy
 ・感覚性失調:ビタミンB12
 ・他覚所見にくらべ時間的な感覚障害が乏しい:遺伝性疾患
 
 <多発性神経炎の典型症状>

 しびれは足先から始まり、左右対称性に上向し、下腿半分を越えた後に、手指の感覚障害が出現し、緩徐に進行します。症状は近位に行くに従い、徐々に軽くなる、いわゆる、length-dependent (神経の長さに依存した)に症状を呈します。

 従って逆に以下の症状がある場合は、否定的な所見であり、他の疾患を考慮します。
1.足先以外から発症
2.手足同時発症
3.下肢(特に足首以遠)に症状がない
4.下肢より上肢の症状の範囲は同等もしくは広範
5.下肢の症状が膝上まで来ているのに上肢に症状所見が無い
6.四肢遠位部より近位部の方が症状・所見が強い
7.四肢だけでなく、頭頸部、顔面、体幹にも症状・所見がある
8.非対称性(左右、背側・腹側)

*下肢に症状のないものは、靴下・手袋型ではない。

参考:総合診療 2016.5 しびれるんです! P399

<small fiber neuropathy>

 末梢神経は神経線維の太さにより、大径(large)、小径(small)に分けられます。

線維径 線維の種類 筋力低下 感覚障害 自律神経障害 腱反射
大径 あり 触覚、振動覚の低下
関節位置覚障害
Romberg徴候(+)
なし 低下
小径 Aδ、C なし 温覚・冷覚の低下
疼痛・かゆみ
感覚低下
知覚過敏
錯覚感*1
自律神経障害*2
あり 正常

*1 錯覚感:触るだけで、痛みや冷感を感じる異常感覚
*2 初期は発汗の低下、皮膚は乾燥ひび割れ。代償性に正常部位の発汗は亢進。末梢の血管運動障害として、発赤・腫脹→
蒼白・冷感を繰り返す。そのほか、眼、口腔の乾燥、交代制便通異常、尿閉、インポテンツ。進行例で起立性低血圧。

 小径の末梢神経のみが障害されると、「灼熱感、穿刺痛、電撃痛」といった激しい痛みを感じます。しかしながら、大口径の神経は正常ですので、筋力正常、腱反射正常、また神経伝導速度検査でも大口径の末梢神経を測定しますので、異常所見が得られず、正常と判断されることがあります。

・分類
 length-dependent small fiber neuropathy(LDSFN) 足先から始まり、徐々に上行する (靴下・手袋型)
 non-length dependent small fiber neuropathy (NLDSFN) 後根神経節の障害により、非典型的な分布をとる

* small fiber neuropathyは痛みが強く、「両足裏が焼けつくようだ。」「口の周りが燃えているようだ。」などの症状を訴えることがあります。

・基礎疾患
  LDSFN:Sjogren症候群、サルコイドーシス、SLE、RA、混合性結合組織病(mixed connective tissue disease)、Celiac病、甲状腺疾患、パラプロテイン血症、HCV、糖尿病など
  NLDSFN:糖尿病、甲状腺疾患、VB12欠乏、HIV、Celiac病、むずむず脚症候群、薬剤性、パラプロテイン血症など
 

<傍腫瘍性末梢神経障害>

 悪性腫瘍に合併もしくは数ヶ月から2年ほと゛先行して末梢神経障害が亜急性または進行性に出現します。自己免疫機序が考えられています。臨床症状に応じて、亜急性感覚性ニューロノパチー,
感覚運動性ニューロパチー,自律神経性ニューロパチーに分類されます。特徴は、Large fiber neuropathyが主体の感覚性失調で、Romberg sign(+)、暗部での易転倒性となります。肺小細胞がんが最多ですが、胃がん、腺がん、リンパ腫などでも起こります。small fiber neuropathy が併発または単独で起こることもあり、その場合は疼痛が中心となります。
 
  <Guillain-Barre症候群>

 『Guillain-Barre症候群は非典型例が典型的』 なかなかキャッチーな表題で書かれた特集(総合診療2016.5.P404-409)がありました。Guillain-Barre症候群は、医学を学んだ者なら誰でも知っている病気なのですが、その知っている知識が典型例のため、非典型例の方が実は多いために、このような表題を付けて注意喚起をしているようです。

 Guillain-Barre症候群の典型的な症状は、急性に発症する進行性の筋力低下と深部腱反射消失を伴う免疫介在型の多発性末梢神経障害とされます。多くは、呼吸器感染症が先行して1-2週間後に発症します。(3-6割は先行感染がありません。)2-4週間以内に症状はピークを付けて改善します。軸索型は抗ガングリオシド抗体が関与。まず、手足のしびれ感で発症し、その後、四肢の運動麻痺を起こします。(かつての典型例の説明では、しびれはなく運動麻痺のみとされていました。)およそ左右対称の症状で、遠位筋優位もしくは近位筋優位の筋力低下をきたします。また下肢優位もしくは上肢優位のこともあります。筋力低下は進行性で、最終的には四肢麻痺、呼吸筋麻痺(25%は人工呼吸器)となります。異常感覚(90%)、疼痛(60%)、感覚脱失、脳神経麻痺(顔面神経麻痺、球麻痺、眼球運動障害)、運動失調、自律神経障害(頻脈、徐脈、高血圧、起立性低血圧、神経因性膀胱など)を起こします。腱反射低下は8割。
 
 臨床亜型として、

・咽頭頚部上腕型
・急性口咽頭麻痺
・facial displegia and paresthesia (FDP)
・下肢型/対麻痺型
・感覚型GBS
・運動失調のみきたす運動失調型
・急性汎自律神経異常症