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整形外科 外科
リハビリテーション科

尺骨神経麻痺 ulnar nerve palsy 肘部管症候群 ギヨン管症候群 遅発性尺骨神経麻痺

 尺骨神経は頚椎からでた神経が腕神経叢を形成しその後、正中神経、橈骨神経、尺骨神経に分かれます。

 腋窩から上腕内側後方を経て肘の尺骨神経溝(肘部管)を通り深指屈筋、尺側手根屈筋へ枝を出し尺側にそって掌側に走行し手関節部手前で浅枝を出しギオン管を通って4,5指に分布します。

 肘部管症候群とギオン管症候群の症状の違いは、前者は尺側手根屈筋、小指の深指屈筋障害がみられ、また手背尺側〜4,5指背側、手関節周辺まで知覚障害がみられますが後者はみられません。

 共通する症状は、障害筋として小指球筋、骨間筋、環・小指虫様筋、母指内転筋、短母指屈筋深頭があります。また手掌側4,5指の知覚障害も共通しています。

 肘部管症候群は外反肘が原因となることがあります。特に小児期の骨折後、成長とともに外反肘となり遅発性の尺骨神経麻痺を起こすことがあります。

 治療はまず局所の安静や投薬などの保存的な治療を行います。改善しない場合は絞扼された原因を治療します。

 肘部管症候群の場合、ガングリオンが原因ならガングリオン切除術を、靱帯が圧迫しているなら靭帯の切離術が、神経の緊張が強いようなら尺骨神経移行術が一般には行われます。

 ギオン管症候群は、長時間の圧迫やガングリオン、血腫などが原因となります。治療保存的に行い、改善しない場合は手術を考慮します。

 ギオン管症候群は珍しい病気で、当院ではサイクリングで数日合宿で乗っていたケースで生じた例があります。保存的治療で改善しました。

 *胸郭出口症候群でも、第8頚髄神経根、第1胸髄神経根の刺激症状が生じやすく、肘部管症候群と同じような疼痛、圧痛を示すことがあります。
 
 肘部管症候群 (鑑別の勘どころ)

 尺骨神経が肘のところで絞扼(何らかの原因で締めつけられること)されると前腕外側〜環指外側〜小指にかけてしびれが出ます。ゴルフ肘とよく間違われます。C8の神経障害を起こす頚椎疾患を鑑別する必要があります。肺尖部に発生するPancoast 腫瘍もまた下方から腕神経叢に浸潤してC8(〜C7)の症状を出すことがありますので注意が必要です。

 頸椎症による神経障害と肘部管症候群が合併するいわゆるダブルクラッシュ症候群を起こすこともあります。

 
 
 神経根症は脊髄から出た神経根部が何らかの原因(多くは頸椎症、椎間板ヘルニア)により圧迫されて生じる神経障害です。原因は、椎間板ヘルニア、椎間孔前方にあるLuschka関節の骨棘変形、後方にある椎間関節の変形・肥大などがあります。椎間孔は入り口(脊髄側)が一番狭く、また神経根が一番膨らんでいる場所でもありますので、圧迫症状が出やすいところとなっています。

<症状>
 肩から上肢に放散する神経根支配領域の疼痛
 支配神経に一致した知覚障害
 神経支配を受けている筋肉の運動障害
 深部腱反射の異常

 *頚椎から出た神経根はC1〜C8までの8本があり、この神経ごとに固有の部位へ分布しています。従って障害された根のレベルによっておのおの特徴的な神経障害症状がでますので、これらより障害レベルを類推します。

 頚部神経根症の73%に頸部痛が伴います。

<検査>

 徒手検査:ジャクソンテスト、スパーリングテスト、shoulder abduction release sign(上肢外転挙上位で症状緩和)

 <小指・環指のしびれ>

 C7/T1の椎間孔から出るC8神経根症状でも小指・環指のしびれがでます。それより末梢の尺骨神経傷害(肘部管症候群、ギオン管症候群)でもでます。神経障害は障害された部位より末梢に症状が出ますので、肘部管症候群では肘より遠位に、ギオン管症候群では手関節より遠位にのみ症状が出ます。

 C8の神経根症状では肩甲間部、肩甲骨部に放散痛が出ます。(厳密にはC7,またはC8の障害)、C5,C6の根障害では肩甲上部に根症状として放散痛が出ます。

<画像診断>

 頚椎単純レントゲン撮影、MRI、CTが有効です。骨棘などの変性所見は、必ずしも臨床症状と一致せず、無症候性のこともあります。画像所見が臨床症状と合致する可動か慎重に判断します。

 ・単純レントゲン撮影:椎間板腔狭小、Luschka関節や椎間関節の変性、骨棘 椎間孔の骨性狭窄は斜位像で描出されやすいですが、斜位像で椎間孔を旨く映し出すのは、なかなか難しく苦労します。(同側、対側と比較します)

 ・CT、MRI CTは骨の描出に優れ、MRIは軟部組織の描出に優れています。椎間孔の狭窄はMRIでの読影は難しいとされています。正確な診断には、いずれも3mm以下のスライスが必要とされています。神経根症状があるにも関わらず明確な所見が認められない場合は、斜位MRIや3D−MRIが有用であるとされています。

 神経根造影・ブロック 障害高位診断と治療に有効

 *第1背側骨間筋の萎縮があれば、C8領域の神経障害(尺骨神経傷害も含めて鑑別する必要あり)
 *頚椎の運動制限やそれによる疼痛がないとき、あるいは夜間の傷みを訴える場合は、内臓疾患、特に心臓、肺からの放散痛を考慮。

<治療>

 高度の神経麻痺症状がなければ、原則として保存治療を行います。安静、消炎鎮痛剤、頚椎の牽引、温熱治療。慢性期には、ストレッチ、頚部筋力強化訓練、理学療法。保存治療に抵抗性で症状の再燃を繰り返す場合や、筋力低下、脊髄症状を呈する場合は手術が行われます。後方アプローチから椎間孔拡大術が行われる場合が多い。

こちらも合わせてお読みください。環指・小指のしびれ