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池田医院・診療日記
信頼とまごころの医療 からだにやさしい医療をめざして

整形外科 外科 リハビリテーション科

過去ログ
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平成28年5月1日(日)
 高齢者の膝痛3 特発性膝骨壊死 軟骨下脆弱性骨折

 特発性骨壊死は高齢女性の大腿骨内顆に多く見られます。時に脛骨内顆(2%)にも発症します。壊死に先行して脆弱性骨折が生じていることは分かっています。加重部分が骨粗しょう症などで脆弱になっている場合に、微小な骨折を繰り返して、徐々に壊死状態となってしまいます。

 症状はある日突然、痛みが出てきます。発症が急なのが特徴です。変形性膝関節症では徐々に痛んでくることが多く、急な痛みで発症するときは特発性膝骨壊死を疑うようにします。レントゲン撮影は病初期には所見が無いのでMRIを撮影するようにします。

 MRIでは病巣部分が信号の変化として出てきます。治療は、早期であれば免荷を行います。骨粗しょう症にも対応します。骨壊死が進み痛みが改善しない場合は、UKA,TKAを行うようにします。
 
 
平成28年5月2日(月)高齢者の膝痛4 半月板損傷

 半月板断裂は、動作時痛、スナッピング、ロッキングといった症状を引き起こします。中高年の半月板損傷は必ずしも症状を起こすわけではないとされています。このため解除できないロッキングや半月板損傷による明らかな可動域制限などが無い限りは手術を行わずに、保存的に対応します。

 最近、中高年の内側半月板後角損傷が注目されています。これは半月板後角付近の(半月板の)横断裂や根部の靱帯部分での引き抜き損傷とされており、中高年、特に女性で急性発症して強い膝痛がある場合はMRIによる精査を行うようにします。断裂部の修復には手術を要しますが、その効果については未だ一定の見解は得られていません。
 
平成28年5月3日(火) 憲法記念日
平成28年5月4日(水) みどりの日
平成28年5月5日(木) こどもの日
 
平成28年5月6日(金) 人工膝関節術後遷延痛

 これまで人工膝関節置換術の遷延痛は10−20%に起こるとされてきましたが、福井大学医学部 整形外科 宮崎剛先生によると人工膝関節置換術後に痛みが残存するケースはTKA術後、28.2%でみられたとのことです。意外と多いです。その成因には精神的な要素も影響しているとしています。
 
 
平成28年5月7日(土) 腰椎分離症の症状〜急性期と慢性期(亜急性期)の違い

<急性期の症状>
 腰椎分離症の急性期とは疲労骨折が起こった直後なので骨折の痛みが生じます。急性期の特徴として運動時の瞬間的腰痛、腰椎伸展時の腰痛とされています。このような症状を好発年齢である10-15歳のスポーツ選手が訴えているときは分離症を強く疑う必要があります。すなわち運動時の腰痛は強いが立位や座位は長時間でも腰痛の増強は少なく、鋭い痛みであり、範囲も狭く、中央から離れた部位に、片側性であることが多いとされています。(両側もあり)

 診察時の所見として棘突起の圧痛と腰椎伸展時の腰痛の誘発が言われてきましたが、伸展時の腰痛は認めないことも多く、他の疾患でもみられることから特徴的とすることはできません。原則としては伸展時痛≧屈曲時痛となります。これまで信頼性が高いとされてきたOne-Leg Standing Lumbar Extension Test も信頼性が低いことが分かってきました。 


<慢性期(亜急性期)の症状>

 急性期の症状は疲労骨折が原因ですので比較的早く痛みが消失します。治癒せずに慢性期に入るとさまざまな症状を起こします。当初は当該椎間板の変性、その後は分離部の滑膜炎、反対側が引き続き分離することにより腰痛を引き起こします。分離に伴う椎間板変性が起こると椎間板変性による腰痛よりも広い範囲で鈍痛を感じるようになります。(いずれも椎間板変性による痛みは運動時よりも長時間座位時の方が強いと言われています。)さらに腰椎すべり症へ移行し神経症状を起こすことがあります。分離部で増生した骨性組織や線維軟骨性組織が圧迫して神経根症状を呈することがあります。
 
平成28年5月8日(日)
 
平成28年5月9日(月)
 腰椎分離症の治療〜急性期と慢性期(亜急性期)の違い

 急性期:疲労骨折であるので、レントゲンで所見に乏しく、CTで軽度の亀裂、MRI T2強調で高信号がみられる初期分離症では治癒を期待できるので硬性体幹装具を3ヶ月を目処に装着します。(骨癒合率90%)装具装着により痛みは約3週間ほどで改善しますが、骨は癒合していないので運動復帰はCTで骨癒合(3ヶ月後)を確認するか、MRIで脂肪抑制T2強調像で高信号が消える(2ヶ月後)のを確認した後に行うようにします。

 *早期の急性期では3ヶ月後にCTを行い骨癒合を確認後にスポーツ再開とする方法とMRIで2ヶ月後に骨癒合(MRIで脂肪抑制T2強調像で高信号が消える)を確認する方法(考え方)があります。(CTが一般的)

 慢性期:レントゲンでははっきりしないがCTで完全な亀裂のあるものでは3-6ヶ月の装具装着を行います。MRI脂肪抑制T2強調像で高信号(骨髄浮腫)を認めるものでは60%、認めないもので30%の骨癒合を得られます。


 終末期(偽関節):骨癒合をめざす治療は選択されず、痛みをコントロールする治療を行い早期復帰をめざします。症状に応じて軟性コルセットや腰椎ベルトを使用します。 

 *装具には硬性装具、軟性装具があり急性期〜慢性期で治る見込みがある場合は硬性装具(急性期で治癒率90%)を優先して装着します。個人個人の状況で硬性装具の同意が得られない場合は治りは硬性装具より劣るがが装着しやすい軟性装具(急性期で治癒率60%)を使います。そのほか、固定力が劣る腰痛ベルト(サクロスポーツライト:アルケア社、初期分離で14例中12例、進行期分離で9例中6例で骨癒合したとの報告あり)や伸展防止タイプ(マックスベルトS3:日本シグマックス社)
 
 
平成28年5月10日(火) 腰椎分離症のスポーツ復帰〜急性期と慢性期(亜急性期)の違い

 急性期〜亜急性期の骨癒合をめざす場合のスポーツ復帰はCTで骨癒合が確認されてから行います。(治療開始後3-6ヶ月)治療経過中は体力維持、体幹、四肢のストレッチを痛まない範囲で行うようにします。特にハムストリングの柔軟性は分離症に与える影響が大きいとされており念入りに行うようにします。

 大場らは初期分離症を治療開始二か月後にMRIを行い、椎弓根の脂肪抑制T2強調像で高信号が消失したのを確認し、その後スポーツ復帰を行い、全例で骨癒合を得たと報告しています。青木らはこれらの結果を踏まえて、早期復帰の希望が強ければ治療開始2か月後にMRIで高信号の消失を確認したうえで運動を再開、一方、確実な治癒をめざす場合は2-3ヶ月以降でCTによる骨癒合を確認してから再開するのが適切としています。治療経過中のCTやMRIは初回は2-3ヶ月目に行い、その後、骨癒合(CT)、高信号の改善(MRI)がなければ、1-3ヶ月毎に再評価します。復帰当初は軟性コルセットや腰痛ベルトを装着します。ハムストリングを中心としたストレッチを継続します。経過中、強い腰痛を起こす場合は、再骨折の可能性もあり再評価します。

 終末期は骨癒合を保存的に治療することは出来ませんので、痛みに応じた対症療法を行います。痛みに対して消炎鎮痛剤、コルセット(伸展制限目的)、温熱治療などを行います。柔軟性を維持、改善する目的でストレッチは継続します。症状が改善してスポーツ復帰が可能となれば徐々に運動を行うようにします。 

 手術療法:急性期分離症で6ヶ月程度保存療法を行ったにもかかわらず、骨癒合が得られず症状が改善しない場合は手術を考慮しますが、骨癒合が得られなくとも症状は改善しスポーツ復帰することも多いので必ずしも手術が必要とはなりません。手術法は、すべり症が無ければ分離修復術を行います。分離部に骨移植をしスクリューもしくはワイヤーで固定します。最近では、経皮的に骨移植を行わずにスクリュー固定する施設もあります。
 
 
平成28年5月11日(水)
  上殿皮神経痛

 上殿皮神経とはTh11〜L4の後根神経から皮枝となり腰背部を下降し腸骨稜近傍で胸腰筋膜を貫通して臀部に至る感覚神経です。この貫通するときに絞扼することによって腰痛や場合によって下肢痛を訴えます。神経の分布は臀部に限局していますので下肢の痛みは放散痛と考えられます。絞扼性障害ですから消炎鎮痛剤、局所麻酔薬によるブロック等を行います。改善しない場合は、顕微鏡下に絞扼部を解放します。
 
 
平成28年5月12日(木) 運動方向による腰痛の見分け方

 腰の運動方法には前屈、後屈、回旋、側屈があります。痛む方向によって病気を類推することが可能です。前屈時の腰痛としては腰椎椎間板ヘルニア、椎間板性腰痛、終板障害(modic type1)があります。後屈時に痛みを誘発するのは、腰椎分離症、椎間関節変性があります。回旋時の腰痛はピッチャーやハンマー投げの選手のように利き腕の反対側の椎間関節の腫大によることがあります。側屈時の腰痛は例えばゴルファーで利き手と動側の椎体終板(右利きなら右側の終板)が障害される場合に起こります。
 
 
平成28年5月13日(金) 脊柱のグローバル筋とローカル筋

 グローバル筋:直接腰椎と付着せずに胸郭と骨盤を連結する筋で腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、脊柱起立筋(外側の腸肋筋、中間内側の最長筋、最内側の棘筋)
 ローカル筋:棘突起や横突起に直接付着する筋:腹横筋、多裂筋、腰方形筋、大腰筋

 グローバル筋は脊柱全体のバランスを取る作用、ローカル筋は分節的な安定性をはかっています。両者で体幹全体が剛体化します。
 
 
平成28年5月14日(土) 脊柱−骨盤−股関節複合体


 腰椎と骨盤と股関節は密接に連動しておりいずれが悪くなっても他所に影響が出ます。このため、脊柱−骨盤−股関節が一体であるという考え方があります。脊柱全体の評価としては、脊柱−骨盤−股関節の可動域を立位前屈して床と指先との距離を測定します。背骨全体が均等に屈曲しているのか、一部が代償性に強く屈曲していないかを調べます。下位腰椎の可動性の低下、胸腰椎移行部での過可動性の有無をみます。また側方への可動性も立位で評価します。

 脊柱の屈曲・伸展の可動性の評価は手のひらと膝を床に付けた四つ這いで行います。股関節の可動域は、下肢挙上テストにて股関節を内旋位、中間位、外旋位にして可動域低下を引き起こしている筋を同定します。
 
 平成28年5月15日(日)
 
平成28年5月16日(月)
 コンタクト・コリジョンスポーツにおける一過性四肢麻痺とスポーツ復帰

 ラグビーやアメリカンフットボールなどのコンタクトスポーツでは頚椎を痛めてさまざまな障害が出ます。頚椎に骨折や脱臼がなくコンタクトプレイで一過性の四肢麻痺を起こすことがあります。多くは脊柱管狭窄がみられます。症状は受傷後数分から60時間以内に回復するとされています。(一時的という意味で一過性であり、永続する場合は一過性とは言えない。)コンタクトスポーツで永久的な四肢麻痺を起こすこともあります。

 一過性の四肢麻痺症例では、Pavlov比(レントゲン側面像:脊柱管前後径/椎体前後径)が平均0.71±01で0.8以下が78.1%を占めました。MRI所見では脊柱管くも膜下腔の消失に加えて椎間板ヘルニアを認める例がありました。月村の報告では、受傷後、全例で四肢麻痺が生じ、、受傷後数分で手足が動き出したものが26例(81.3%)、他の6例も受傷後24時間以内に改善傾向が見られ離床したとしています。


 以下に競技復帰に対する考え方とプロトコールをしまします。コンタクトプレーへの復帰は条件が揃ってトレーニングを積んで受傷3ヶ月以降となります。

<一過性四肢麻痺(TQ)からの競技復帰基準共通コンセンサス(月村)>

 ・基礎的事項:十分な頚部筋力があり、正しいタックル方法が習得されている
 ・プレー可:初回TQの神経症状が完全回復、頸部痛なし、頚部可動域がfull、脊柱管狭窄なし、頚椎不安定性なし、上位頚椎奇形なし
 ・相対的禁忌:X線上Pavlov比≦0.8またはMRI上くも膜下腔の消失の頚部脊柱管狭窄を有し、初回TQ?(議論の余地あり)
 ・絶対的禁忌:複数回のTQ受傷、上位頚椎奇形合併、MRI上の頚髄損傷・浮腫の存在、頚髄神経症状の残存、頚椎不安定性、Spear tackler's spine

 *Spear tackler's spine タックルを受けて頚椎が槍状に真っ直ぐになる状態、外傷性に後弯変形する

<一過性四肢麻痺(TQ)からの復帰条件プロトコール>

 脊髄性麻痺症状が完全回復→No→プレー中止
 ↓Yes
 MRIで頚椎椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症がない→No→プレー中止
 ↓Yes
 頚椎の不安定性がない→No→プレー中止
 ↓Yes
(受傷後1ヶ月以上)
 走行系トレーニング、筋肉トレーニング 頚部筋力、伸展筋力が絶対値で>300Nmで、屈曲/伸展比<0.89 →No→コンタクトプレー待機
 ↓Yes
(受傷後3ヶ月以上)正しいコンタクトプレーを習得
コンタクトプレーを再開し症状再発が無い→No→プレー中止
 ↓Yes
試合復帰→No(症状再発)→プレー中止

 参考:コンタクト・コリジョンスポーツにおける一過性四肢麻痺とスポーツ復帰 月村泰規 関節外科 vol35 No.5 2016
 
 
平成28年5月17日(火) 頚椎症性神経根症からのコンタクトスポーツ復帰

 頚椎症性神経根症とは何らかの頚椎の変形やヘルニアがあり頚椎部の神経根部を圧迫することにより頚〜肩〜上肢に痛みやしびれがでます。症状は頚椎を後屈したり後屈+病側回旋で悪化します。MRIでは脊髄症(脊髄に圧迫)に比較して神経根部の圧迫は同定しにくく、CTを併用することで参考となることも多いとされています。

 衝突の瞬間、頚部〜肩〜上肢に焼けつくようなしびれ感が出る場合をBurner症候群と言いますが、何度も繰り返したり、症状が遷延する場合は頚椎椎間板ヘルニアや椎間孔に骨棘がでて狭窄していることがあります。安易に自己診断するケースも見受けられますが、しっかりと調べる必要があります。

 一般的にラグビーやアメフトなどのコンタクトスポーツは頚椎の加齢性変化が早期に出ると言われており10歳代でも骨棘形成を認めることがあります。

 検査は診察に加えてレントゲン撮影を行い、MRI、CTで詳細な評価を行うようにします。骨棘などの骨性変化の描出はMRIよりCTの方が優れています。一方、椎間板ヘルニアなど軟部組織の描出はMRIが優れます。

 神経根症状は根が分布する部位のしびれや痛みのみではなく筋肉も支配していますので脱力などが問題となります。ベンチプレスやアームカールで上げられなくなったり左右差が出たりします。

 治療は保存的治療を行い、改善しない場合は手術を検討します。消炎鎮痛剤に加えて牽引や低周波などの理学療法、ストレッチを行います。通常、一ヶ月程度は安静にしこれらの治療を行います。手術は症状が遷延するケースで考慮します。状況に応じて椎間孔開放術、前方除圧固定術を選択します。
 
<椎間孔開放術後の後療法>

 術翌日 頚椎カラーを使用し歩行開始
 術後2週〜頚椎カラー除去、等尺性運動、可動域訓練
 術後1ヶ月〜ジョギング
 術後2ヶ月〜非接触プレーの個人練習、頚椎抵抗運動
 術後3ヶ月〜非接触プレーの全体練習、接触プレーの個人練習
 術後4ヶ月〜接触プレーの全体練習、試合出場許可

<頚椎前方除圧固定術の後療法>

 術翌日 頚椎カラーを使用し歩行開始
 術後1ヶ月〜頚椎カラーの除去、等尺性運動、ジョギング
 術後2ヶ月〜非接触プレーの個人練習、頚椎抵抗運動
 術後3ヶ月〜(骨癒合確認後)非接触プレーの全体練習、接触プレーの個人練習
 術後4ヶ月〜接触プレーの全体練習
 術後5ヶ月〜試合出場許可
 

<Torgらによる頚椎外傷・損傷のコンタクトスポーツへの復帰基準>
1.復帰可能
 ・矢状断で変形治癒せず可動域制限の温存されているC1-2の骨折後
 ・無症候の頚椎棘突起骨折
 ・神経学的異常の無い頚椎椎間板ヘルニア
 ・1椎間の頚椎前方or後方固定術後
 ・椎間孔開放術後
 ・神経学的所見・頚椎可動域制限が元に戻った3回目未満Burner症候群(別名:Stinger症候群)
 ・24時間以内に回復した1回目の一過性四肢麻痺

2.相対禁忌
 ・24時間以上持続するBurner症候群(別名:Stinger症候群)
 ・神経学的所見・頚椎可動性制限が元に戻った3回目以上のBurner症候群(別名:Stinger症候群)
 ・24時間以上持続する一過性四肢麻痺
 ・2椎体までの頚椎前方or後方固定術後
 ・椎間関節不安定性を伴った椎間板障害

3.絶対禁忌
 ・急性期の椎間板ヘルニア
 ・慢性のhard discによる椎間板ヘルニアで神経所見、疼痛、可動域制限のあるもの
 ・急性期の椎間板ヘルニアもしくは慢性のhard discヘルニアによる椎間板ヘルニアで一過性四肢麻痺
 ・C1-2固定術後
 ・三回以上の一過性四肢麻痺
 ・頚椎症性脊髄症
 ・持続する神経脱落症状、頚椎可動域制限、頚部違和感
 ・頚椎椎弓切除後
 ・3椎間以上の頸椎固定術後


 参考:頚椎症性神経根症からのスポーツ復帰 天野ら 関節外科 vol35 No.5 2016
 
 
平成28年5月18日(水) 足底線維腫 plantar fibroma

 線維腫は外傷や機械的刺激などで生じる良性の腫瘍です。はっきりとした原因は分かっていません。表在型として手掌(手掌腱膜線維腺腫、デゥピュイトレン病)や足底(足底線維腫)に、深在型としてデスモイド(腹壁、腹壁外、腹腔内)があります。

 足底線維腫は土踏まずに歩行時の痛みが出て腫瘤として触れます。痛みが無いこともあります。

 診断は超音波断層検査やMRIを行います。腫瘍の性質上、他疾患との鑑別、確定診断は生検が必要ですが、悪性が疑われない限り経過観察をして急速な増大を認めなければ問題ないと考えます。

 治療は症状に応じて行います。痛みに対しては消炎鎮痛剤、ステロイドの局注が効果的です。ステロイドの局所注射は腫瘍の縮小を期待することができます。装具としては足底板を使用します。

 鑑別診断としては足底腱膜炎があります。これは足底腱膜の炎症による痛みで腫瘤は触れません。
 
 
平成28年5月19日(木) スポーツ損傷としての仙骨疲労骨折

 仙骨は脊椎の一番下部で骨盤の後面を形成する骨です。仙骨疲労骨折は高齢者を中心とした脆弱性骨折、出産前後、腰仙骨固定術後、スポーツ障害として生じるものがあります。

 殿部痛、坐骨神経痛、仙腸関節痛、腰痛などの症状が出ますので腰部疾患や仙腸関節炎との鑑別をしっかりと行います。仙骨疲労骨折は通常、レントゲンでは所見がなくMRIを行う必要があります。

 治療は原因となった運動の休止です。仙骨部に負荷のかかる運動は休止し痛みが生じない上肢や体幹上部のトレーニングを行うようにします。数週間から数ヶ月程度で痛みが改善し復帰できるようになります。
 
 
平成28年5月20日(金) 黄色靱帯骨化症 OFL ossification of the ligament flavum

 黄色靱帯は上下の椎弓間を架橋し、脊柱管の後壁とと側壁を構成します。黄色靱帯骨化症はこの靱帯が何らかの原因で肥厚し骨組織に置換され脊柱管が後側壁より圧迫狭窄された状態をいいます。

 アジア人に多く、胸椎部の脊髄・神経根圧迫症状を起こす代表疾患となっています。下位胸椎から胸腰椎移行部に多く頚椎での発症はほとんどありません。調査によると30歳以上で発生することがほとんどで、30歳以下ではほとんどありません。最近の報告では30歳未満でもアスリート特に野球のピッチャーで黄色靱帯骨化症による手術例があります。右投げなら左側の肥厚が大きくなる傾向があります。

 症状は患側の肋間神経痛、下部胸壁の痛み(違和感、張り感、筋肉痛様)を中心に、時に下肢のしびれや下肢筋力の低下が起こります。

 診断はMann試験陽性に加えて、レントゲン、MRIを行い、CTによる精査が必要です。保存的な治療を行って改善しない場合は手術を考慮します。


 Mann試験:両足を前後につけて起立し閉眼させます。体幹が動揺し10秒以内に足の位置がずれる時を陽性とします。脊髄後索路障害による平衡機能障害の可能性があります。
 
 
平成28年5月21日(土) サーファーズ・ミエロパチー Surfer's myelopathy

 2004年にTompsonらによって初めて報告されたサーフィン中に生じる原因不明の下肢対麻痺のことで世界で65例(うち56例がハワイ)報告されています。はっきりとした原因は分かっていませんが、MRIで第5胸椎〜脊髄円錐レベルに脊髄虚血が起こっているのが確認されています。

 大部分が若い男性で、初心者の初回サーフィンで発症、外傷無く背部痛で発症し両下肢の知覚障害と麻痺が生じ、尿閉と進行します。発症から1時間以内に麻痺が完成。大部分の症例で対麻痺は回復しないとされています。

 MRIの画像所見からは脊髄の梗塞像と同じものを認めます。

*病態はミエロパチーではなく脊髄梗塞による対麻痺

 平成28年5月22日(日)
 
平成28年5月23日(月) 成長期スポーツ選手の腰椎疲労骨折の治療

 腰椎疲労骨折の早期診断にはMRIが必要。2週間以上続く腰痛と理学所見があればMRI。「まずMRI、そしてCT。」CTで改善を待つのでは無く1ヶ月毎にMRIの検査を行い、症状の消失とMRIでの所見が改善すれば、アジリティトレーニングを開始し復帰する。 

参考: 成長期スポーツ選手の腰椎疲労骨折の治療 大場俊二  災害・整形外科 第59巻第6号5月臨時増刊号)
 
 
平成28年5月24日(火) 舟状骨骨折〜疲労骨折を含む

 舟状骨骨折は若者が転倒して手をつくと起こりやすい骨折です。嗅ぎタバコ窩に圧痛があるのが特徴です。捻挫と自己診断してそのまま放置し偽関節となることがあります。体操競技など手関節に繰り返して負荷をかける運動では舟状骨の疲労骨折を起こすこともあります。

 治療は、転位がほとんどない場合、またはMRIやCTでようやく骨折と診断できる場合は、ギプス固定を4−6週間行います。受傷直後より転位のある例、経過中に転位が増大する例では手術を行います。スポーツ選手では早期回復をめざして手術療法を積極的に選択することが推奨されています。

 舟状骨中央では掌側から、近位部では背側からアプローチします。

 <治療方針>

 ・新鮮安定型骨折
  前腕から手までのギプス固定(short arm cast)を4−6週間行う。ほとんど転位の無い例(1mm未満)、骨挫傷が対象。
  遷延治癒や偽関節に注意。受傷後4ヶ月程度は慎重に経過観察
  近位部や斜骨折は不安定型なので手術を考慮する。

 *ギプス固定は、母指まで固定するthumb spica castや上腕までのlong arm castではなく、前腕から手までのコレスキャストで十分とする報告があります。

 ・新鮮不安定型骨折
 早期スポーツ復帰をめざす場合や受傷時に転位(1mm以上)がある場合は手術を行うようにします。
 ・偽関節
  遊離骨移植と血管柄付き骨移植があり、骨移植と内固定を行います。
 
 
平成28年5月25日(水) 痛みとは?

 すべての痛みは脳で感じます。傷めた部位から脳まで神経が伝導して脳細胞を刺激して痛いという感覚を起こします。

 痛みの感覚には2種類あって、例えば指を切ったりすると最初は太い知覚神経であるAδ繊維が直接断裂などの機械的な刺激が脳に伝わり「痛い!」となり、そのあと更に細い線維であるC繊維の終末受容器に痛みの物質が作用してひりひりした痛みが起こります。

 終末受容器(侵害受容器)が刺激されて神経伝達(一次ニューロン)が起こり脊髄の後角から脊髄の後索(二次ニューロン)を経て視床に達しそこから三次ニューロンを経て大脳皮質で「痛い!」と感じます。更に大脳皮質から大脳辺縁系につながり「苦痛」であると感じます。

 神経受容体には痛みの物質(ヒスタミン、プロスタグランディン、セロトニン、サブスタンスP、アセチルコリン、カリウムイオン、水素イオン、乳酸、アラキドン酸、インターロイキン)が結びついて神経を刺激します。

 痛みが続くと視床下部を通じて自律神経系の異常が起こります。また不快な症状が続くと大脳辺縁系(大脳外側)を介して精神症状を起こします。また意識を司る脳幹網様体を介して不眠となります。

 痛刺激による自律神経への影響は交感神経系を刺激して局所の血流の低下を起こします。また発汗を促し皮膚が湿った感じになります。筋肉も収縮し更に血流が低下、痛みの物質が蓄積し症状が悪化します。このように痛みの悪いサイクルが完成しするとなかなか治りにくいことになります。

 眠っているときは痛刺激は脳に達しますが、痛いという感覚は起こりません。あくまでも痛みを感じるのは起きているときのみとなります。
  
 
平成28年5月26日(木) 人工膝関節置換術(TKA)後のスポーツ活動

 変形性膝関節症などにより人工膝関節置換術を行った後のスポーツ活動は、原則としてlow-impact sportsが中心となります。Bradburyらの報告によると平均68歳、平均経過観察期間5年での169例208膝におけるTKA術後のスポーツ復帰について報告しており、これによると術前に週1回以上のスポーツ活動を行っていたものは49%、そのうち65%が術後スポーツ復帰した。テニスなどのhigh-impact sportへの復帰率は20%であり、low-impact sportsへの復帰率は91%ででした。

 KTA術後のスポーツ可否については以下を参照。膝への負担が大きい運動は推奨されない。

<Healy WlらによるTKA術後のスポーツ復帰>

許可:ボーリング、エアロバイク、社交ダンス、ゴルフ、シャッフルボード、水泳、ウォーキング、カヌー、サイクリング、スクエアダンス、ハイキング、競歩

経験があれば許可:ローイング、アイススケート、クロスカントリースキー、ダブルステニス、乗馬、滑降スキー

見解が得られていない:フェンシング、ローラースケート、重量挙げ、野球、体操、ハンドボール、ホッケー、ロッククライミング、スカッシュ、ラケットボール、シングルテニス、ウェイトマシン

推奨しない:バスケットボール、フットボール、ジョギング、サッカー、バレーボール
 
 
平成28年5月27日(金) 脛骨跳躍型疲労骨折

 脛骨の跳躍型疲労骨折は、難治性の吸収型疲労骨折であり、仮骨形成に乏しく、治療には長期間を要します。

 骨形成型の疾走型疲労骨折とは異なり、6週間程度の運動制限では治癒しません。短期間の局所安静で痛みは改善し、レントゲン所見にも大きな変化が出てこず、安易に運動を再開すると更に悪化します。

 慢性化した例や早期復帰をめざす場合は、髄内釘挿入を行います。一般の脛骨骨折と異なり骨折部の固定性、髄内血流よりも、伸張ストレスを回避するために髄内釘を骨皮質に密着させます。横止スクリューは不要です。

 症状はランニングのストップ時やジャンプの着地時の痛みが中心で運動強度が上がれば痛みも増強します。症状が悪化すると階段昇降や起床時、動き始めの痛みが強くなります。

 初期は2週間程度の安静で症状が改善するため、受診すること無くそのまま運動を自己判断で再開してしまうケースが多いとされています。

 慢性化してしまうと保存療法には抵抗性で4ヶ月の運動休止を行っても治癒率は50%以下とされています。また経過中に完全骨折となることがあります。

 慢性例では脛骨骨幹部前方の痛み、腫れ、圧痛があり、レントゲンで嘴状の仮骨形成とBlack−lineと呼ばれる骨吸収像もしくは明瞭な骨折線を認めるようになります。初期にはレントゲンの変化がみられないので注意が必要です。

 スポーツの種類としては、バレーボール、バスケットボール、クラッシック・バレエに多くみられ、その他、陸上、体操、ハンドボール、野球、テニス、チアリーディング、バトミントン、アメフト、卓球でみられた。(関東労災病院における報告)

<治療方針>

 保存的治療は完治が困難なことが多い。

 初期例:発症1ヶ月程度の初期であれば、保存療法が有効。ランニングなどの下肢に負荷のかかる運動は6週間休止します。ハムストや殿筋の筋力強化は行います。徐々にランニングを開始しますが、ジャンプ動作や急激な力がかかる動作は控えます。3ヶ月程度、運動強度の制限を行います。

 慢性化例:二か月程度の運動制限を行い、殿筋とハムストリングの強化で治癒例もあるとされています。骨折部が深部に進行することあり。

 手術:運動中止が困難で確実にスポーツ復帰を期待する場合や完全骨折の危険性が高いもの、長期罹患例は手術の対象となります。髄内釘はリーミング径より0.5mm細い髄内釘を挿入し、骨皮質との密着をはかります。横止スクリューは使用しない。

 後療法:手術翌日より荷重歩行可能。一週間程度で松葉杖は不要となります。術後一週間から自転車エルゴメーターを開始。3−6週間して挿入部の刺激が緩和すれば、レッグエクステンションやハーフスクワットなどの筋トレを行います。6週間以降、創通が軽度となれば、ランニングの許可。術後10週後に筋力測定実施し、健常比比80%以上の筋力であれば、徐々にスポーツ復帰を行います。3ヶ月より競技復帰に向けてトレーニングを高め、4−6ヶ月で復帰をめざします。
 
 
平成28年5月28日(土) シンスプリントの重症度分類と治療

 The American Medical Association defines shin-splint syndrome as “Pain and discomfort in the lower leg. It is caused by repetitive loading stress during running and jumping, and occurs in 4% to 35% of athletic and military populations. The diagnosis should be limited to musculoskeletal inflammation, excluding stress fractures or ischemic disorders.”

 米国医学協会のシンスプリントの定義は「下肢の痛みと不快感。ランニングやジャンプを繰り返すことによって生じる。アスリートや軍人の4−35%に生じる。診断は疲労骨折や虚血性疾患を除いた骨格筋の炎症とする」となっています。虚血性疾患はコンパートメント症候群、動脈異常などの血流障害を起こす疾患を意味します。

 シンスプリントは両側の場合も片側の場合もあります。踏切足に多いとされています。一般型(軽症)と重症型に分けられています。一般型は踏切時に痛みが生じ重症型は着地時に痛みます。いずれもレントゲンでは異常を認めず(重症例では骨膜の反応があることも)、MRIでは一般型は無所見もしくは筋、骨膜の異常信号、重症型では骨髄の異常信号を認めます。

 八木の報告によると発症の個体要因として女性の高BMI、股関節内旋可動域高値があり、足部回内は発症要因と関係なく原因では無く結果であるとしています。トレーニングの要因としては、頻度は関係なく、競技レベルが高いほど発症率が高かったとしています。

 一般型は長趾屈筋の過収縮により後脛骨筋の滑走が障害されるために生じます。(長趾屈筋腱をくぐるように後脛骨筋腱が下層で交叉しているため)治療は長趾屈筋の過緊張を緩和し、後脛骨筋を強化します。復帰は平均2週間かかります。Walshの分類stage2以下はスポーツ活動の制限は必要ないとしています。stage3はランニング、ジャンプを制限し、安静は必要としない。長趾屈筋、長母趾屈筋に対して足関節背屈位で足趾伸展運動を行います。その後、足関節底屈位にて足趾屈曲させます。後脛骨筋を鍛えるために他動的に足趾を屈曲させて足関節を内返しします。

 重症型は脛骨の捻りストレスによる疲労骨折の前駆症状と考えられ4週間の走行、ジャンプの禁止が必要。着地時〜蹴り出しまでの距骨下過回外や外側アーチの低下に対して、長・短腓骨筋や小趾外転筋の運動療法や足底板が有効で、復帰には2-3ヶ月を要します。骨の微細損傷が繰り返され修復が間に合わず骨吸収が亢進して異常帯と考えられるので骨の修復期間として4週間の走行、ジャンプの禁止が必要です。

(参考:シンスプリントの重症度分類と治療 八木茂典 整形・災害外科第59巻第6号5月臨時増刊)

 本来のシンスプリントは疲労骨折を除くとなっており疲労骨折の前駆状態である重症型はその発症様式の違いから疲労骨折と考える方が良いと思います。従ってシンスプリントの分類はいずれ一般型のみとなり重症型は疲労骨折として扱われるのではないかと考えます。(−池田)
 
 
平成28年5月29日(日)
 
平成28年5月30日(月) アキレス腱〜アキレス腱周辺の障害

 アキレス腱実質の障害(アキレス腱症、アキレス腱周囲炎)
 アキレス腱付着部の障害(アキレス腱付着部症、踵骨後部滑液包炎)

 *アキレス腱症=アキレス腱炎、炎症よりも微細な損傷や小断裂によりアキレス腱実質内のの変性と退行性変性(瘢痕化、変性肉芽組織)が中心であり腱症と呼ばれることが多くなっています。

 腱周りの炎症は繰り返す運動により微少な損傷が起こり、それを治すために線維化、瘢痕化が起こり変性していきます。急性期には強い炎症反応が起こり疼痛が生じることもあります。急性期には局所の安静とアイシング、消炎鎮痛剤の投与が行われます。72時間以上経って慢性化する場合は温熱治療や超音波治療を追加します。さらに体幹〜下肢のタイトネスを改善させる必要があります。それには症状に応じたストレッチやトレーニングをします。

 このようにして痛みが改善して十分な可動域を確保した上で運動を徐々に再開させます。痛みが無い=治ったと勘違いし自己判断で運動を再開し悪化することが多いので注意が必要です。痛みが改善しない場合は手術療法も考慮します。

 アキレス腱症とアキレス腱周囲炎との鑑別法:腱症は足関節の屈曲・伸展で痛む箇所が移動するが周囲炎では移動しない。

<アキレス腱症の治療>

 アキレス腱症の初期治療は少なくとも6ヶ月間、保存治療を集中的に行う。アスリートの場合は2-3ヶ月の保存治療で軽快しない場合は手術療法を検討します。原因の基本は下腿三頭筋収縮によるover useが原因となっており、アキレス腱への牽引ストレスを控えるようにします。

 アキレス腱への負担を減らすために1cmほど踵部が高くなった足底板、下腿三頭筋の遠心性運動が有効であると言われており、足関節を最大屈曲〜伸展を行うようにします。

 ステロイドの局所注射は腱の脆弱性を起こすために推奨されない。アキレス腱症、アキレス腱周囲炎にヒアルロン酸の局所注射を行い効果的とする報告があります。(変性したアキレス腱とkager's fat padの間にヒアルロン酸と局麻剤を注入します。保険外)

<アキレス腱滑液包、アキレス腱付着部炎>
 
 踵骨後部滑液包(踵骨とアキレス腱の間)、アキレス腱皮下滑液包炎
 

 
平成28年5月31日(火) 外反母趾

<外反母趾の病態>
 MTP関節部での外反
 母趾の回内
 母趾種子骨の外側偏位
 第1中足骨の回内
 第1足根中足関節の過可動性

 <外反母趾の重症度分類>
外反母趾:外反母趾角が20°以上のもの
軽症:20°以上30度未満
中等症:30°以上40°未満
重症:40°以上

<治療>
保存治療:足底板(アーチサポート、メタタルパッド、第1中足骨骨頭近位内側パッド)、運動療法(母趾外転筋運動)
手術治療:第1中足骨骨切り術が主流で、骨を切る部位によって遠位、近位、骨幹部に分けられさまざまな術式がある