大転子部痛症候群(GTPS:Greater Trochanteric Pain Syndrome、大転子疼痛症候群とも書きます)とは、股関節の外側、太ももの付け根で外側に出っ張っている骨(大転子:だいてんし)の周りに痛みが出る状態の総称です。
以前は「大転子滑液包炎(かつえきほうえん)」、つまり大転子の周りにある袋(滑液包)の炎症と呼ばれることが多かったのですが、最近は炎症そのものよりも、お尻の横にある中殿筋(ちゅうでんきん)・小殿筋(しょうでんきん)という筋肉の腱の傷み(腱障害)が主な原因と考えられるようになってきました。滑液包炎のほか、外転筋腱の部分断裂、腸脛靱帯(ちょうけいじんたい)による圧迫や摩擦、外側型の弾発股(だんぱつこ)なども含めて、まとめて「股関節外側の痛み」として扱います。
どこが痛むか
痛むのは大転子の真上、そのやや後ろから外側、お尻の外側から太ももの外側にかけてです。患者さんは「股関節が痛い」と言って来られるのですが、痛いのは足の付け根の前側(鼠径部:そけいぶ)ではなく外側、というのが特徴です。
どんな症状か
押すと痛い、痛い側を下にして横向きに寝られない、歩くと痛い、階段の上り下りで痛い、片足で立つと痛い、長く座った後に立ち上がると痛い、といった訴えが多いです。
なぜ起こるか
中殿筋・小殿筋は、歩くときに骨盤が左右に傾かないよう水平に保つ大事な筋肉です。ここが弱ったり硬くなったり、使いすぎたりすると、腱が大転子に付着する部分にストレスがかかります。さらに、脚が体の内側に入りやすい姿勢では、腸脛靱帯が大転子を外側から圧迫しやすくなります。ですから単なる「炎症」というより、外転筋の腱が慢性的な負担と圧迫で傷んでいる状態、と考えるほうが実際に近いです。
大転子滑液包炎との関係
大転子滑液包は、大転子と中殿筋・小殿筋の腱、腸脛靱帯との間にあって、これらがこすれるときの摩擦を和らげている袋です。ランニングやサイクリングのような繰り返し動作、長時間の立ち仕事、肥満、股関節周りの筋肉の傷みなどがきっかけで、この袋に炎症が起きて外側の痛みが出ることがあります。ただし前に書いたとおり、純粋な滑液包炎は思ったほど多くなく、実際には中殿筋・小殿筋の腱の傷みと一緒に起きていることが多いと考えられています。ですから今は、滑液包炎もこの大転子部痛症候群というまとまりの中で扱います。
診察と検査
診察では、大転子を押したときの痛み、片足立ちでの痛み、骨盤が傾くトレンデレンブルグ徴候、股関節を外に開く動きに抵抗を加えたときの痛みなどを確認します。GTPSは基本的に診察で診断できる病気ですが、なかなか治らない場合、夜間痛が強い場合、腱の断裂や変形性股関節症、疲労骨折を除外したい場合には、レントゲン、エコー、MRIを使います。
まちがえやすい病気
似た症状を出すものに、変形性股関節症(こちらは鼠径部の痛みや股関節を内側にひねる動きの制限が中心)、腰の神経からくる関連痛(しびれや放散痛を伴う)、仙腸関節の痛み、大腿骨頚部の疲労骨折などがあります。「股関節の外側が痛い=変形性股関節症」とは限りません。大まかには、鼠径部が痛ければ股関節そのものの問題、外側が痛ければまずGTPSを考える、と整理しておくと分かりやすいです。
もう一つ大事なのが、太ももの外側の「しびれ」が主体のときに考える外側大腿皮神経絞扼障害(がいそくだいたいひしんけいこうやくしょうがい)との区別です。こちらは痛みというより、しびれや灼熱感、感覚の鈍さが前面に出て、力が入らなくなる運動麻痺は伴いません。圧痛の場所も大転子ではなく、足の付け根の前(上前腸骨棘の内側あたり)です。下の表に見分け方をまとめます。
| 項目 | 大転子部痛症候群(GTPS) | 外側大腿皮神経絞扼障害 |
|---|---|---|
| 主な原因 | 中殿筋・小殿筋の腱や腸脛靱帯とのこすれ、使いすぎ、外傷 | 足の付け根(鼠径靱帯部)で外側大腿皮神経が締めつけられる(肥満、きついベルト、妊娠など) |
| 主な症状 | 股関節外側の圧痛、動いたときの痛み、夜間痛 | 太もも外側のしびれ・灼熱感・感覚の鈍さ(運動麻痺はなし) |
| 圧痛の場所 | 大転子の直上 | 上前腸骨棘の内側〜鼠径靱帯の下あたり |
| 誘発テスト | 大転子の圧痛、股関節の外転・内転での痛み | チネル様徴候(上前腸骨棘の内側)、骨盤圧迫テスト |
| 画像・検査 | MRIで滑液包の炎症や腱の傷みを確認 | 超音波で神経の腫れ、MRIのT2高信号、神経伝導検査 |
| 治療 | 安静、NSAIDs、ステロイド注射、理学療法、PRP | 締めつけの原因を取り除く、NSAIDs、神経障害性疼痛の薬、神経ブロック注射 |
| 予後 | 多くは保存療法で改善、再発することもある | 約半数は保存療法で改善、難治例では手術も検討 |
治療
ほとんどの方は手術をせず、保存療法で良くなります。まずは痛い側を下にして寝ない、脚を組まない、片足に体重をかけて立たない、階段や坂道・長距離の歩行を一時的に控える、といった負担を減らす工夫が基本です。そのうえで中殿筋・小殿筋を少しずつ鍛えていきます。腸脛靱帯や大腿筋膜張筋(だいたいきんまくちょうきん)のストレッチも有効です。痛み止めの塗り薬や飲み薬も使います。なかなか治らない場合には、ステロイドの局所注射やPRP、体外衝撃波(たいがいしょうげきは)といった治療も検討します。ステロイド注射はよく効きますが、腱を傷めることがあるため繰り返しすぎないよう注意します。腱が切れている場合や、どうしても改善しない難治例では、滑液包の切除術などの手術や、専門的な評価が必要になることもあります。
まとめると、大転子部痛症候群は「大転子の周りの滑液包炎」というより、中殿筋・小殿筋の腱の傷みを中心とした股関節外側の痛みの総称です。診察では「押すと痛い」「横向きで寝ると痛い」「脚を外に開く力に抵抗すると痛い」がそろうと、かなりこの病気らしくなります。
参考:『Orthopaedics』2024年10月号 / 『関節外科』2024年10月号 / 『脊椎脊髄ジャーナル 2023.12 目で見て学ぶ脊髄・末梢神経疾患の診察法』