では、本当に膝の水は抜くと癖になるのでしょうか?
まず答えを先にいうと、絶対に癖になることはありません。癖になるというのは迷信です。それは、水が溜まるメカニズムを理解すれば、一目瞭然です。水が溜まる原因は、関節内に何らかの炎症が生じて関節液が大量に作られるためです。水が溜まる疾患として変形性膝関節症が有名ですが、この場合、すり減った軟骨のかけらが遊離して関節液を産生する滑膜が炎症を起こし関節液を沢山分泌するようになります。この結果、生産と吸収のバランスが崩れて溜まるようになります。
「抜くと癖になる」がなぜ迷信と言えるのか
関節液を抜く行為(穿刺・関節穿刺)は、あくまで既に溜まってしまった液体を体外に取り除く処置であり、これによって滑膜が新たに刺激されて液を作り出す、という機序は知られていません。関節液が作られ続けるかどうかを決めているのは、軟骨の摩耗や滑膜の炎症といった、水が溜まる原因そのものが続いているかどうかです。穿刺は標準的な整形外科診療で日常的に行われる安全な処置として位置づけられており(StatPearls: Knee Arthrocentesis, 2024年更新)、「抜く行為自体が新たな水を呼ぶ」というメカニズムを支持する医学的根拠はありません。抜いた後に再び溜まってくる場合があるのは、抜いたことが原因なのではなく、炎症の元になっている病態(軟骨の摩耗など)がまだ続いているためです。
更に問題なのが、炎症性に溜まった関節液には炎症を引き起こす物質が多く含まれています。これらにより更に滑膜が刺激されて関節液が分泌されることになります。このような悪循環を繰り返すことによって関節液はたまり続けることになります。
それでは、溜まった関節液が溜まらなくするには、どうすれば良いでしょう?まず炎症を抑える必要があります。これは消炎鎮痛剤が有効です。これだけですと、膝の軟骨がすり減る要因を改善できませんのであくまでも対症療法となります。膝の中に炎症物質を取り除くには穿刺して吸い出してやるのが効果的です。
穿刺後のヒアルロン酸注入について、一言補足
穿刺後に軟骨を保護する目的でヒアルロン酸を関節内に注入する治療は、日本を含め広く行われてきました。ただし近年、この治療の位置づけは国際的なガイドラインの間で見解が分かれています。米国リウマチ学会・関節炎財団(ACR/AF)の2019年版ガイドラインは、プラセボと比較した効果が小さく一貫していないことを理由に、膝OAへのヒアルロン酸注入を条件付きで推奨しないという立場を取っています。一方、国際変形性関節症学会(OARSI)は膝OAへの使用を条件付きで推奨しており、学会・ガイドラインによって評価が割れているのが実情です(Kolasinski SL, et al. Arthritis Care Res. 2020;72(2):149-162)。137件の研究を統合した大規模なネットワークメタ解析でも、ヒアルロン酸注入に統計的な効果は認められたものの、その改善幅は小さく、臨床的に意味のある改善(MCID)に届かない場合が多いと報告されています(Bannuru RR, et al. Ann Intern Med. 2015;162(1):46-54)。ヒアルロン酸を使うかどうかは、こうした評価の分かれる状況を踏まえ、主治医と相談しながら判断するのが良いでしょう。
加えて、膝が安定するように筋肉トレーニングや膝のストレッチを行うようにします。
これらにより膝が安定して軟骨のすり減り抑えることにより、膝の炎症が引いてくれば水は自然と溜まらなくなります。ただ単純に水を抜くだけだとまた溜まって来る可能性がありますが、これらの治療を組み合わせることにより、膝を安定させて、水が溜まりにくい膝に改善させることが可能と言えます。
逆に、水を抜くのを恐れて、溜まったままにすると炎症が継続して、変形が進行していくことになります。
*炎症が軽度で水の溜まりもそれほどではない場合は、必ずしも抜く必要がある訳ではありません。ケースバイケースです。
膝の水が溜まるのはある程度、変形性膝関節症が進行した中期以降に起こってくるとされています。このまま放置するのは、極めてよろしくないといえます。