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整形外科 外科
リハビリテーション科

ペルテス病 Perthes disease

 4-7歳(6歳がピーク)の子供に見られる股関節の病気です。骨頭が壊死して変形してきます。骨頭部分の血流障害が原因と言われています。受動喫煙で頻度が高くなるので関係が示唆されていますがはっきりとはしていません。男子に多く発症します。(男女比6:1)

 股関節の痛みが徐々に出てくることが多いです。子供の股関節疾患は大腿神経と股関節前面の神経がつながっているために膝の痛みを訴えることが多々ありますので注意が必要です。(子供の膝痛は股関節も疑う!)

 跛行と疼痛、可動域制限、股関節部の圧痛が起こります。痛み始めの一ヶ月ほどはレントゲン撮影で所見が出にくい。その後、徐々に壊死による変形や濃淡が出てきます。単純性股関節炎との鑑別が必要です。単純性股関節炎は使い痛みで無理をしたあとに急に痛んでくることが多く、Perthes病はこれよりゆっくりと痛んできます。

 診断はMRIが優れています。特に早期の変化はMRIでないとわかりません。

 股関節炎と診断が付けば、まず大人しく生活をして症状が強ければ松葉杖で免荷します。一週間程度で改善しなければPerthes病の可能性も考慮してMRIを行います。

 発症年齢やMRIで股関節骨頭壊死の部位、範囲により治療方針を決めます。軽度のものは無治療(放置では無く経過観察)ということもあります。ほか、牽引療法、装具療法、手術が病状に応じて選択されます。
 
ペルテス病の治療の考え方

 通常片側発症で両側は8%程度、家族性は5%となっています。好発年齢は4-8歳で7歳前後の発症が多い。予後は、4歳以下の発症もしくは壊死範囲が大腿骨頭の2分の1以内のものは一般に良好です。逆に9歳以降の発症もしくは骨頭の3分の2を越える壊死では、骨頭の圧壊から関節の不適合を生じる可能性が高く積極的な治療を要します。治療の原則は、壊死の予防や拡大を防ぐ方法は無く、骨頭の圧壊を防ぎ、関節の適合性をよくし、将来の関節症を防ぐことです。

 治療の概念としてcontainment療法が広く行われています。これは包み込むという意味の単語で、ペルテス病では骨頭の壊死が起こりますが、骨頭を受ける側の臼蓋には異常がありません。この臼蓋に骨頭を包み込むことによって臼蓋の圧壊を防ぐという考え方です。

 装具を使うか手術をするかは明確な統一見解が無く、施設や術者によってさまざまな意見があります。

 病期分類
 初期
(滑膜炎期)
 発症〜1ヶ月
発病から骨頭に透亮像が現れるまでの時期
わずかな骨頭の圧潰、骨頭の側方化もしくは透亮化
 
 壊死
(硬化期)
 〜6ヶ月
骨端が硬化して骨頭の高さが減じる
 分節期  6ヶ月〜1年6ヶ月
骨頭の修復が始まり壊死骨の吸収がおこり骨頭の内側と外側を中心として骨透亮像が出現する。新生骨が出現するまで。平均約8ヶ月
骨壊死が吸収されて骨端はモザイク様になる
 再骨化期
(修復期)
 一年6ヶ月〜
骨硬化部が通常の濃度になり透亮部に新生骨を認めるようになる時期で、骨頭全体が再骨化するまで。4年以上持続することが多い。骨端の後方から新生骨が出現して修復が始まり、送れて前方に新生骨が出来てくる
 残余期  骨頭修復が完了し骨頭核が正常の骨構造となったときから成長が完了するまでの期間。成長により骨頭形状は変化することがある。

 Catterallの壊死範囲分類(一部でも骨吸収が生じている範囲) 
 group1  骨頭の前方部分のみの壊死(ほとんど無い)
 group2  骨頭の前方から中央に及ぶ(半分以下)
 group3  骨頭の大部分が壊死だが内外側の一部は保たれている(半分以上)
 group4
 骨頭全体の壊死(全体)

Salter-Thompson分類
軟骨下骨折の範囲でA,B群に分ける
A群:軟骨下骨折の範囲が骨頭の2分の1を超えないもの。軽症例
B群:骨頭の2分の1を超えるもの

Lateral pillar 分類 
 分節期の正面レントゲン像では骨頭中央の変化が強く、骨頭の変化を内側・中央・外側の3つの部分に分けてとらえる。骨頭外側の高さの残存程度と予後との相関が強い。
 A群  外側に病変なし。外側の高さが健側と同じ
 B群  外側の高さが50%以上
 B/C border群  追加修正された分類で、B群の中でも以下の3つに該当する場合は予後が悪い
1.骨頭外側部分の幅が3mm以下
2.骨頭外側部の骨萎縮が強い
3.骨頭中央部の陥凹が強い
 C群  外側の高さが50%未満

<保存的治療>

原則:骨頭が潰れる時期は関節炎を起こすので、股関節の可動域が低下します。低下により骨頭の加重部分が狭くなり圧壊しやすくなるので、最初に安静にし、関節炎を消退させて可動域を改善させることが必要です。その後、年齢、骨頭の状況により治療方針(経過観察、装具、手術等)を決めます。

 
年齢別治療方針 
 4歳未満  活動性低く体重も少ないので股関節への負担は少ない。また残余期での関節適合性改善が見込めるので、壊死範囲に関わらず特別な治療は要しないことが多い。著しい骨頭の圧潰が生じていても関節の適合性に問題がなければ経過観察のみでよい。

 股関節の可動域制限による跛行がある場合は短期間の安静により可動域を改善させる。壊死範囲が広く、経過中に骨頭の外方化を生じる場合は加重装具を使用する。
 4・5歳  何もせずに経過観察すると骨頭変形を起こすことが多いため治療を行うことが望ましい。
・発症早期で壊死範囲が不明の場合や壊死範囲が明らかになったあと、Catterall I・II群は免荷を行わずに外転装具
・壊死範囲が広い場合は外転免荷装具
 6−8歳  学童期は活動も増し股関節にかかる負担も大きい。骨頭の圧潰が生じやすいので壊死範囲に関わらず外転免荷装具
股関節の外転制限がある場合は、牽引治療で外転制限を解除してから装具装着
分節期以降などで関節の適合性が不良な場合でも牽引治療で外転制限が解除できれば装具治療
4週間牽引治療をおこなっても外転制限が解除されない場合は、手術を考慮。
片側が残余期に至る前に対側が発症した場合は外転荷重装具に変更
 9-11歳  この年齢は残余期に十分なリモデリング期間がなく、再骨化期に骨端閉鎖がおこるなど、治療中は良好な経過に思えても最終成績は必ずしもよくないとしている。保存的療法にこだわらず手術を常に念頭に置く。
・初期で骨頭の圧潰を認めないか極軽度の場合、6-8歳と同様に外転免荷装具を装着。→経過中、骨頭の圧潰により骨頭の外方化や外転制限が生ずれば、手術を考慮。
・初診時にすでに股関節の適合性が不良→手術を考える
 12歳以上  成長終了までの期間が短く、containment療法の効果は期待できない。→大人の大腿骨頭壊死に準じた治療を行う。
 装具除去の判断  再骨化期の後半で、レントゲン正側面像で骨頭の輪郭が欠損無くはっきり見えるようになってから。装具除去時、加重装具であれば運動制限を更に半年程度行う。免荷装具では、段階的に加重し、半年程度で全荷重とする。
参考文献
下村哲史 ペルテス病 MB Orthop.28(10):87-92.2015.)
中村幸之ら Perthes病の画像診断 整形・災害外科,65:1275-1280, 2022
 
 本日のコラム75 ペルテス病の装具治療の考え方

 ペルテス病における装具療法の目的は、大腿骨頭の壊死した部分を球形に再生させることです。このため、装具は骨頭を外転、内旋させるようにします。(潰れているところへの荷重を避けるようにします。)両側装具と患側のみの片側装具があります。片側装具の方が歩行しやすいが、患側への体重が掛かりやすい。このための両側装具を用いる施設も多い。ただし、6歳以上の子供は小学校で恥ずかしがって、なかなか装着してくれないという問題があります。6歳以上では、(両側装具を装着したがらないケースなどで)患肢非荷重の松葉杖歩行ができれば、それに切り替えることもあります。

 参考文献
 渡邊英明ほか:小児股関節疾患に対する装具、整形・災害外科,60:59-65, 2017
 
本日のコラム329 小児股関節疾患の診断と治療 3

<ペルテス病>

 ペルテス病は、小児において大腿骨の近位にある骨端部への血行障害により阻血性変化が起こり壊死となる病気です。骨端症のひとつ。原因は様々な説がありますが不明です。15歳以下に発症し、、ピークは4−7歳、男子に多くみられます。症状は、無いこともありますが、単純性股関節炎より疼痛は軽く、大腿部や膝痛を訴えることが多い。レントゲンで偶然見つかることもあります。

 臨床所見
 ・flexion adduction test 陽性
 ・可動域低下
 ・scarpa三角部の圧痛
 ・Patrick sign 陽性
 ・レントゲン 骨端核の減高、骨硬化像、軟骨下骨の骨折(Crescent sign):かならず2方向を撮影します。初期は正面像だけでは診断が困難。
 ・MRI:T1強調、T2強調像ともに低信号

 病期分類−概ね3−5年で以下の経過を辿る 
 ・滑膜炎期(初期の炎症)
 ・硬化期(壊死期)
 ・分節期(骨壊死の吸収が進行する時期)
 ・修復期(骨新生が開始する時期)
 ・残余期

 *放置しても自己修復するのが特徴ですが、骨頭が非球形に修復された場合は、40歳以降、半数近くで痛みを伴った変形性股関節症となるとの報告もあり、できるだけ変形の少ない骨頭を確保するのが治療の目的とされています。

 
 治療:保存治療が第1選択、必要に応じて外転免荷型装具を装着します。
  
 超音波所見
 UJS(Ultrasonographic joint space)・・・大腿骨頚部と関節包外側までの距離
 UJSは年齢に関係なく6mm前後。水腫があるとUJSが拡大して低エコー領域が見られる。この低エコー領域は単純性股関節炎でも見られる。ペルテス病の病期が進行すると骨端の不整(レントゲンでは骨頭の変形)が見られる。