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整形外科 外科
リハビリテーション科

特発性膝関節血症(Idiopathic Haemarthrosis of the Knee)

高齢者において、明らかな外傷や誘因がないにもかかわらず膝関節内に血腫が生じることがあります。このような症例では、原因が特定できない「特発性膝関節血症」として扱われることがありますが、実際には外側半月板の断裂や外側下膝動脈からの出血が関与していることも少なくありません。

この疾患は、60歳以上の高齢者に多く、変形性膝関節症(特に外側型)や高血圧症を背景に持つ方に発症しやすいとされています。症状としては、膝の腫脹、圧痛、可動域制限、熱感などがみられ、反復性の関節内出血を呈することが特徴です。

鑑別診断としては、色素性絨毛結節性滑膜炎(PVS:pigmented villonodular synovitis)が重要です。PVSでは、MRIで関節内にT1・T2強調像ともに低信号を示す結節性病変が認められ、造影MRIでは病変の広がりを把握することができます。ただし、慢性滑膜炎でも滑膜の肥厚や血腫の貯留がみられるため、最終的な診断には病理組織学的検査が必要となります。

また、後天性血友病の可能性にも注意が必要です。特に高齢発症の出血性疾患として、後天性第VIII因子インヒビターによる血友病ではAPTTが延長します。一方、後天性第XIII因子欠損症ではAPTTは正常であるため、凝固系検査の解釈には慎重を要します。

治療は、関節穿刺による血腫の除去と安静を基本とし、必要に応じて滑膜切除や半月板切除などの外科的介入が検討されます。再発例では、関節鏡視下での出血源の同定と止血処置が有効とされています。

特発性膝関節血症と鑑別疾患の比較表

項目 特発性膝関節血症 色素性絨毛結節性滑膜炎(PVS) 後天性血友病(VIII因子)/XIII因子欠損症
好発年齢 高齢者(60歳以上) 若年〜中年(30〜50歳代) 高齢者に後天性が多い(特に60歳以上)
発症様式 誘因なく反復性の関節血腫 ゆっくり進行する滑膜腫瘍性病変 突然の関節血腫や皮下出血、筋出血
主な症状 膝の腫脹・血腫・可動域制限 関節腫脹・疼痛・可動域制限・滑膜肥厚 関節内出血・皮下出血・筋出血・血腫形成
MRI所見 滑膜肥厚や血腫(非特異的) T1・T2低信号の結節性病変(ヘモジデリン沈着) 関節内血腫(非特異的)
造影MRI 特異所見なし 病変の広がりが明瞭に描出される 特異所見なし
病理所見 慢性滑膜炎、ヘモジデリン沈着 組織球様単核細胞の増生、多核巨細胞、泡沫細胞など 出血性素因の証明には病理よりも血液検査が重要
血液検査 通常は正常 通常は正常 APTT延長(VIII因子)/正常(XIII因子)
凝固因子検査 異常なし 異常なし VIII因子活性低下またはXIII因子活性低下
治療 関節穿刺、滑膜切除、半月板切除など 滑膜切除(鏡視下または直視下)、再発例では放射線療法 凝固因子補充療法、免疫抑制療法(ステロイドなど)