胸骨筋症候群 sternalis-muscle-syndrome
【結論】
胸骨筋(sternalis muscle)は「胸骨の前面を縦走する非常に稀な破格筋(Accessory muscle)」であり、通常の人体解剖には存在しません。
胸部CT・MRIで偶然見つかることが多く、その頻度は報告によって 0.5〜10% とされます(一次情報は地域差が大きく一定していません)。
臨床的には無症候のことがほとんどですが、胸骨前面の胸痛評価や腫瘤との鑑別において存在を知っておくことが重要です。
【根拠】
1. 胸骨筋とは何か(破格筋)
胸骨筋(sternalis muscle)は、
胎生学的には、胸筋群または腹直筋群の発生異常(migration variation)として説明されますが、統一した見解はありません。
2. どのように見つかるか(CT・MRI・エコー)
胸骨筋は無症候であることがほとんどで、画像検査で偶然見つかる“incidentaloma”の一種です。
■ CT
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胸骨前面に細長い軟部組織として描出
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皮下脂肪との間に明瞭な境界
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造影効果は筋肉と同程度
CTでは胸骨後方・胸肋関節・縦隔の評価が主目的で撮影されるため、“偶然見つかる破格”として最も報告が多いのがCTです。
■ MRI
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T1/T2 で筋組織と同じ信号
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腫瘤性病変(脂肪腫・表在腫瘍)との鑑別に有用
■ 超音波
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表在であれば線維走行を持つ筋組織として描出
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局所腫瘤との鑑別に役立つ
3. 胸骨筋と胸骨周囲の痛み
胸骨筋そのものが痛みの原因になるという明確な一次情報は乏しいため、
胸骨筋症候群=胸骨筋が原因という意味では必ずしもない
という点が重要です。
胸骨筋は破格であっても、
胸骨前面の痛みを評価する際には、
「破格筋があるために触診で膨隆を感じる → しかし病的意義はない」
という場面が少なくありません。
4. 鑑別上の意味
胸骨筋を知らないと、CTで
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表在腫瘤
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リンパ節
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軟部腫瘍
と誤認される可能性があります。
胸骨前面に線状〜細長い軟部影を見たら、
sternalis muscle をまず疑う
というのは、画像診断における大切なポイントです。
【注意点・例外】
・胸骨筋は破格であり、存在していても通常は臨床的意義はありません。
・胸骨筋症候群の“痛みの原因”として胸骨筋そのものを特定する一次情報は限られ、確定的な位置づけはありません。
・CTで胸骨前面に軟部影を見つけた場合、腫瘍や感染を疑う前に破格筋の可能性を考慮する必要があります。
・疼痛を伴う場合、胸壁痛の原因が胸骨筋なのか、肋軟骨・胸鎖関節・筋膜性疼痛なのかを丁寧に鑑別することが重要です。
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