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整形外科 外科
リハビリテーション科

頚椎椎間板ヘルニア cervical disc herniation

 椎間板ヘルニアは腰椎で有名ですが、実際には脊椎のどこにでも起こりえます。頸椎の神経根部に起これば頸の痛みに加えて手や肩に放散する痛みやしびれが生じることがあります。また脊髄を強く圧迫すると脊髄症となり下肢にも症状が出ます。歩行障害や筋力低下がみられます。この場合、long tract signと言って上位脊椎による神経反射の抑制が低下するために膝蓋腱反射が亢進します。(圧迫する部位により症状が異なります。主に神経根症と脊髄症、もしくはその混合症状に分けられます。)


 圧迫する神経レベルで症状が異なります。痛みはなくて手指の一部が少ししびれるだけのこともあります。レントゲンやMRIで分かる変形やヘルニアが必ずしも症状を出しているわけではなく、障害部位と神経症状のレベルが一致して初めてその可能性があると判断します。画像所見はあくまでも補助診断です。神経根症の場合、親指はC6、中指はC7、小指はC8神経の障害ででます。この場合、末梢神経障害(正中神経、橈骨神経、尺骨神経など)との鑑別も重要です。

 皆さん心配されるのは脳との関係です。脳梗塞でも手の麻痺やしびれが出ることがあります。脳梗塞でしびれのみの単独症状はきわめて珍しいケースです。麻痺を伴ってしびれが出る場合は脳梗塞などの疾患も考慮します。以前、朝起きたら手が少し動きにくく痺れ感が僅かにある人が来られました。整形疾患ではないと判断し、神経内科を直ちに紹介し精査した結果、脳梗塞の診断を得ました。また、仕事中に急に手の力が抜けてきた方も脳塞栓症でした。突然、痛みがなく、麻痺やしびれが出てきたらまずは脳疾患を除外する必要があります。→直ちに脳神経科のある救急病院を緊急受診します。左京区なら、京大病院、京都府立医科大学病院、京都第1日赤病院、京都第2赤十字病院がお勧めです。この場合、かかりつけ医に診て貰うのは時間のロスで、超急性期に出来る治療が行えなくなりますので、素早い対応が必要です。

 脳梗塞の場合、一般的にはしびれ単独での発症はまれで上肢や下肢の麻痺が中心で時としてしびれを伴うことがあるとされています。もちろん頸のヘルニアのように頚部の痛みや神経根レベルで分別されるしびれや運動麻痺とはなりません。例えば、頚椎椎間板ヘルニアによるC5根部単独の障害ならその神経が行っている筋や神経の障害のみが出ることになります。

 神経は頸椎から出て割と狭いところや皮膚の直下を走るところがあり、そこで狭くなって絞扼されたり圧迫されて神経障害の症状が出ることがあります。上肢の神経絞扼や障害もいろいろありますが、橈骨神経麻痺、尺骨神経麻痺、正中神経麻痺が絞扼や圧迫、外傷などで障害されます。

 頚椎椎間板ヘルニアで手術することはほとんどなくなりました。経過もよく保存的な治療(手術以外の治療)でよく治ります。もともと頸椎にある脊髄神経が通る脊柱管はあまり余裕がなく少しヘルニアが出っ張ると症状が出やすいです。更に生まれつき脊柱管が狭い人もいます。

 いずれにせよ神経症状がある人はレントゲンに加えてMRIによる検索を行い、症状と合致する異常所見があるか調べます。統計的には1%の確率(100人に1人)で癌や癌の転移が生じていることがあります。

 こういった悪性のものを除外診断しておくことはとても重要です。

 その上で頚椎椎間板ヘルニアによる症状と診断できれば、手術適応を判断してし、手術を行わない場合は保存的治療を選択します。急性期には頸椎の安静を保つために頸椎の装具や場合により安静臥床が必要なケースもあります。消炎鎮痛剤や神経を元気にさせるビタミンB12なども必要に応じて投与します。少し落ち着いてきたら頚椎牽引などの理学療法を開始します。

 これらの治療により痛みはかなりコントロールできるようになります。従ってほとんどの方が痛みから解放されることになります。ただ痛みは改善しても痺れ感は残ることがよくあります。しびれは手術しても治らないことが多くなかなかやっかいです。しびれに関しては治らないこともあるが気にしないようにして慣れたら良いという先生もおられます。

 こういったしびれ、痛みに最近はプレガバリン(リリカ)やミロガバリンベジル酸塩(タリージェ)などの神経障害性疼痛に使う薬剤が有効なケースもあります。めまいなどの副作用に気をつけて少量から開始するようにします。当院では、通常使用量の1/3程度から、体格や年齢を勘案してお出ししています。

 神経根症は、頚部や肩甲上部、肩甲間部の激烈な痛みで急性発症することがあります。痛みが強いけれど、そのほとんどは保存治療で沈静化します。


C6/7で椎間板ヘルニアを認める。
 知覚神経とデルマトームそして神経障害レベルの診断

 デルマトームとは皮膚割線という意味ですが、身体の各部位においてどの知覚神経が分布しているかを示します。後頭部C2、頸部C3、C4、肩、鎖骨C5、乳頭T4、へそT10、そけい部L1というふうにC1〜8,T1〜12、S1〜5まで25本、左右で50本に神経が脊椎から出ています。(C:頚椎、T:胸椎、L:腰椎、S:仙骨)

 この分布図からどの神経が障害されているか調べます。もちろんMRIなどの画像診断も形態上の変化を参考にします。例えば右手の親指にしびれがある場合、支配神経はC6です。C6は頚椎のC4/5レベルで脊髄から分岐し、C5/6の椎間孔を通って腕神経叢を経て正中神経の一部として親指と人差し指に分布します。C4/5レベルで椎間板ヘルニアが起こるとC5の神経根症状とC6の髄節障害が起こります。

 これは脊椎に比べて神経である脊髄の方が伸び少なくずれが生じるためです。1.5椎体上方にずれています。ややこしい話ですが、骨と椎間板で構成される脊椎は例えばC4/5レベルで椎間板ヘルニアが起こりますと、真後ろにある脊髄はC6髄節でありC4/5の椎間孔を通る神経はC5となりますのでこの押さえられた部位によって症状が変化します。

 頚椎は7個で頚椎から出る神経は8本ですので胸椎からは一つ番号がずれます。また脊髄はL2レベルで脊髄円錐となって終了し以下は神経根が集まって馬尾神経を構成します。馬尾の圧迫は神経根の圧迫症状を起こします。(馬尾には髄節はないので当然、髄節の圧迫症状はありません。)

 馬尾は馬のしっぽが開いたように斜め下方に伸びて椎間孔を通過します。このとき同じレベルの椎間板ヘルニアであっても脊柱管内と椎間孔から椎間孔外部では圧迫する神経根が異なります。腰椎L3/4レベルでは、脊柱管内ではL4の神経根症状が、椎間孔から椎間孔外部ではL3の神経根症状が出ます。
 
 頭がこんがらがりそうな話ですが、分かりましたでしょうか?

(まとめ)
 頚椎は椎体の上から同じ番号の神経根が出る。頚髄は椎体より1.5髄節上にある。C4/5で髄節はC6、神経根はC5の症状が出る。
 腰椎はL2で脊髄円錐、神経根で出来た馬尾に変わる。L3/4でL4神経根、椎間孔〜外側で一つ上のL3神経根の症状が出る。 
 頚髄の圧迫症状

 頚髄の構造はH型の灰白質がありその周囲を白質があります。灰白質は神経細胞が集まっており、白質は縦走する神経線維で構成されています。H型の灰白質は前にある前角と後ろにある後核に分けられます。前角は運動神経、後角は知覚神経が分布しています。

 頚髄が圧迫されると神経細胞のある灰白質が最初に障害されるので、該当する髄節の感覚障害(後角)、筋肉の運動障害(前角)が出ます。更に進行すると神経束である白質(錐体路、脊髄視床路、後索)の障害が出てます。

 錐体路障害:下肢腱反射亢進、痙性麻痺、歩行障害
 脊髄視床路障害:温度覚、痛覚障害
 後索障害:深部感覚障害
 また排尿障害を起こします。

 当初は上肢の痛み、しびれ、筋力低下で始まり、更に進行すると足の腱反射が亢進し歩行障害が出てきます。

 平山らの報告では、運動障害主体22.2%、感覚障害主体30.6%、運動+感覚障害45.4%、特殊型1.9%としています。(平山恵造ら 変形性頚椎症の神経障害と臨床病型、108例の分析、神経進歩 1993;37;213-225)
 頸椎症(神経根症、頚髄症)の保存的治療、手術療法の選択

 頸椎症の手術適応は1ヶ月以上の保存的治療を行っても改善せず日常生活にかなり支障がある、上肢の筋萎縮や麻痺、歩行障害、膀胱直腸障害などが認められるなどに加えて画像診断で症状の出る部位とと画像の異常所見が合致し手術により改善が見込めることが重要です。頸椎症の神経障害のレベルは慢性に徐々に進行するのではなく、転倒などの頚部の外傷、頚部の運動、頚部の不良な姿勢をとったときなどに悪化し、しばらくすると緩解するといった再発と緩解を繰り返すことが多いとされています。

 一般的に初診時に軽症である人はそれほど進行せずに症状も改善して再度悪化することもなく過ごせることもよくあります。悪化を繰り返す場合は頚椎の後方へのすべり症などの不安定性や後屈などの不良な姿勢を取る人に多いと考えられます。

 症状にもよりますがまずは医療機関での保存的な治療と局所への負荷を減らすよう生活習慣を改善するなどをおこないましょう。

  
本日のコラム196 頚が悪くて腰の症状が出ることがあります

 頚椎の変形や椎間板ヘルニアで脊髄を圧迫すると手や足に症状が出ることがあります。度々問題となるのは、頚椎が悪いのに腰や足の症状が出る場合です。こういった場合、腰部に狭窄などの病変が無いか調べることが多いのですが、腰にはあまり大した所見が無いのに、頚椎で著しい狭窄を起こしている場合があります。

 このような場合、頚椎から手術を行って経過をみて、腰部の症状である間欠性跛行が強く出るときは、腰の手術を追加します。

 頚髄症で起こる腰部以下の症状としては、S1領域の坐骨神経痛を起こすケースが多いようです。また歩行障害は痙性麻痺によるもので、これに腰部から来る間欠性跛行が混ざるようにして症状を発しますので、臨床所見をしっかりと把握することが大切です。

 脊椎は頚椎、胸椎、腰椎からなり、1箇所の病変だけではなく数カ所の障害により症状を起こすこともありますので,注意が必要です。