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池田医院・診療日記
信頼とまごころの医療 からだにやさしい医療をめざして

整形外科 外科 リハビリテーション科

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2017.1 2017.2 2017.3
平成29年4月 新しい門出をお祝いします。
 
1日(土)
 本日のコラム127 整形外科を訪れる外傷性の他科疾患
 コンタクトスポーツに代表される運動において、頭部外傷、胸腹部臓器損傷などが起こりえます。

 ・頭部外傷:脳しんとう、脳挫傷、硬膜外血腫など、意識レベルの確認、頭痛、嘔気、嘔吐。CTによる精査。脳しんとうは意識障害を伴わないことも多いので注意。

 ・胸部外傷:外傷性気胸(肺虚脱、縦隔偏位)、胸部CT

 ・腰背部、側腹部の痛み:腎臓、脾臓、膵臓など後腹膜臓器の損傷の可能性→躊躇無くCT、血液検査、エコーなど追加。

 ・後腹膜臓器損傷:腎外傷(血尿、腰背部痛、嘔気、腹痛など腹膜刺激症状)、脾外傷(左季肋部痛、ショック、筋性防御、分かりにくいときもある)

 ・下肢の末梢動脈疾患:膝窩動脈補足症候群(膝窩領域の腓腹筋の異常付着、膝窩動脈の走行異常により膝窩動脈が慢性的に圧迫をうけ狭窄や閉塞を来たし下肢の循環障害を呈する。若年男性がスポーツで下肢の間欠性跛行を訴える。足関節の受動的背屈や能動的底屈で末梢動脈の拍動が減弱、消失。30%が両側性。)、膝窩動脈外膜のう腫(外膜ののう腫化、中高年男性、片側性、膝屈曲で末梢動脈拍動減弱・消失。嚢胞切除、血管切除、血行再建など

 

参考文献:Orthopedics 整形外科外来における他科疾患を見逃さないコツ 3.2017
 
2日(日)

3日(月) 本日のコラム128
 小児整形外科の他科疾患

 整形外科を受診する小児のうち、整形外科以外の疾患を鑑別することは大切です。


 ・眼性斜頚:筋性斜頚と異なり、頚椎の可動域は正常、患側閉眼で斜頸は戻る。頭部を斜頚位と反対に傾斜させると眼球の上下偏位が生じる。

 ・Duchanne型筋ジストロフィー:2-5歳頃に、易転倒性、階段昇降困難、走れないなどを主訴とする。筋力低下は近位筋優位。仮性肥大が腓腹筋に。採血でCK,LDH,GOT,GPT,アルドラーゼの上昇。

 ・シャルコー・マリー・トゥース病:両側下腿の筋萎縮と感覚障害、足部変形を特徴とする遺伝性末梢神経疾患。遠位の筋萎縮、筋力低下。逆シャンパンボトル型。

 ・ビタミンD欠乏性くる病:1-2歳頃に下肢のO脚を主訴に受診。生理的O脚との鑑別は3歳までは困難であることが多く、経過観察が必要。単純立位正面両下肢全長を撮影し、大腿骨遠位や脛骨近位骨幹端部に、骨端線の拡大、盃状陥凹、毛羽立ちを認める。脛骨骨幹端骨幹角(脛骨骨幹部の長軸と骨幹端の内外側を 結ぶ線の垂線がなす角)が10°未満であれば、ほぼ生理的O脚と考えられるが、画像からの鑑別は難しいので、採血を行う。(血清カルシウム↓、リン↓、AlP↑、副甲状腺ホルモン↑、血中25OHビタミンD↓)

 壊血病:ビタミンC(アスコルビン酸)の欠乏。極端なダイエット、神経性無食欲症、極端な偏食が原因。不足が6-12ヶ月続くと発症することが多い。歩行困難、下肢痛、足を動かさないなどが主訴となる。症状は、倦怠、衰弱、体重減少、全身の点状出血、歯肉の腫脹・出血、乾燥性角結膜炎、消化管出血、骨膜下出血。レントゲンでは、成長軟骨と骨幹端部移行部に帯状の石灰像、その遠位に骨透亮像をみる。化膿性関節炎との鑑別は炎症反応がない、白血球数が正常。食事歴、血中のビタミンC濃度が低値。

 ・白血病:小児の急性白血病は2-5歳をピークに発症。四肢・多関節痛、歩きたがらないなどが主訴となることがある。発症時に四肢の痛みや関節痛を約20-40%に認める。熱感や腫脹は無いこともあり、関節周囲の痛みだけのこともある。顔色不良でなんとなく元気が無く、局在のはっきりしない四肢痛や歩かない子供は白血病も除外診断する必要がある。レントゲンでは、骨吸収像、滑膜反応、骨幹端部にleukemic band(長幹骨の成長障害、白血病細胞の異常増殖)。画像診断としては、MRIが優れている。(全身の骨髄が侵されている場合は、すべての骨髄でT1強調像が低信号となり、正常像と間違うことがあるので注意。)


参考文献:Orthopedics 整形外科外来における他科疾患を見逃さないコツ 3.2017
 
  
4日(火) 本日のコラム129 膝痛をきたす他科疾患

 整形外科疾患以外の疾患による膝痛
1.腫瘍性
 1)悪性血液疾患:白血病、転移性骨腫瘍
2.腫瘍随伴症候群:転移では無く、一種の反応性変化。
 1)肥厚性骨関節症:ばち指、長管骨の骨膜新生、関節炎
 2)Carcinomatous polyarthritis:関節リウマチに類似した多関節炎、悪性腫瘍に先行して症状を呈する。
3.薬剤性:アロマターゼ阻害剤、タキサン系抗がん剤で関節痛、筋痛、その他数多くの薬剤が関節痛を生じさせる
4.血管性病変
 1)急性膝窩動脈閉塞
 2)膝窩動脈瘤(Baker嚢胞と間違わないようにする)
 3)膝窩動脈捕捉症候群:膝窩動脈周辺の筋腱などの異常により膝窩動脈が圧迫される。間欠性跛行、膝窩部痛、下腿痛。30歳以下で運動強度の強いスポーツ選手に多い。両側性が半数以上。
 4)深部静脈血栓症:典型例は下肢の腫脹、熱感、発赤、疼痛。はっきりしない例もある。d-dimerのチェック、血管エコー、造影CT
5.関連痛
 1)腸腰筋の病変:腸腰筋膿瘍や血腫で膝痛のことあり。股関節の伸展で疼痛憎悪。レントゲンで腸腰筋の左右差、CT,MRI。
 2)閉鎖孔ヘルニア:大腿内側の痛み、しびれ
 3)閉鎖神経絞扼障害:スポーツ選手などで外閉鎖筋の過緊張で、内転筋不全麻痺、大腿〜膝の痛み
 4)骨盤内腫瘍:巨大なものは、閉鎖神経、大腿神経を圧迫して症状
6.皮膚疾患(乾癬、SAPHO症候群、アレルギー性紫斑病)
 1)乾癬性関節炎
 2)帯状疱疹
7.血友病:関節内出血
8.アレルギー・自己免疫疾患
 1)血清反応陰性脊椎関節炎
 2)アレルギー性紫斑病:血管性紫斑病の一つ。IgA免疫複合体沈着による小血管の血管炎症候群。出血斑(紫斑)、浮腫、腹痛、関節痛、半数に腎臓病。3-10歳に多い。50%に風邪などの先行感染、1-2週間後に発症。左右対称性の関節痛。
9.代謝性疾患
 1)アミロイドーシス
 2)アルカプトン尿症:常染色体劣性遺伝。40-50歳代に関節症の発症が多い。
10.その他
 1)サルコイドーシス::関節炎はサルコイドーシス発症早期より生じ2-3ヶ月の経過で自然軽快する急性型と慢性遷延型がある。急性型が主で、足関節が最も多い。ほかに、骨サルコイドーシス(手足の基節骨、中節骨)、筋サルコイドーシスは主に大腿、下腿筋肉内の腫瘤。
 2)末端肥大性関節症:好発部位は、股関節、膝関節、肩関節。骨棘、高度の関節変形、靱帯や関節包は弛緩。
 3)Erdheim-Chester病:原因不明の非ランゲルハンス細胞組織球種。50代に多い。長管骨の骨幹端および骨幹領域に両側対称性に侵され、斑状の骨硬化像。レントゲン→MRI

参考文献:Orthopedics 整形外科外来における他科疾患を見逃さないコツ 3.2017

 
#奥が深いです。
 
 
5日(水)本日のコラム130 頸部痛をきたす他科疾患

 整形外科疾患以外の多くの疾患で頸部痛をきたします。頸部〜頭部疾患のみならず、胸部、腹部、婦人科(更年期障害)、精神科、歯科、眼科などあらゆる科の疾患が原因となります。

1.突発性で生命の危機を及ぼす頸部痛
 ・虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞):頚椎症性神経根症との鑑別。頸部の動きでは増強されず、左頸部から肩・上肢・前胸部に放散する痛みは虚血性心疾患を考える。右肩〜右上肢にに放散する虚血性心疾患もあるので注意。


2.突発性で神経学的症状をきたし、後遺障害を残しかねない頸部痛
 ・椎骨動脈解離:後頭部〜後頚部にかけ急性、片側性、中等度以上の疼痛の継続あるいは憎悪。自然軽快することも多いが、くも膜下出血、脳梗塞を起こしうる。くも膜下出血を発症するまでの期間は3日以内の報告が多い。頚椎のマッサージで起こることあり。50歳以下に多い
 ・頸動脈解離:前頚部に突発する激烈な痛み、脳梗塞やくも膜下出血を起こすことあり。50歳以下に多い

3.発熱を伴い神経学後遺症を残しかねない頸部痛
 ・髄膜炎:jolt accentuation of headache→1秒間に2-3回の速さで頭を水平方向に回旋させ頭頚部痛の増強が見られる現象(感度97%)、髄液検査(腰椎穿刺)前に、脳ヘルニアの既存と悪化を考慮して頭部CTを事前に行うことが推奨されている。

4.慢性進行性の神経症状を示す頸部痛
 ・筋萎縮性側索硬化症(ALS):頸椎症では起こらない舌萎縮、線維束収縮、下顎反射亢進、構音障害、嚥下障害を認める。
 ・パーキンソン病:振戦、無動、筋強剛、姿勢反射異常。

5.発熱を伴う激烈な頸部痛
 ・Crowned dens syndrome(CDS):軸椎歯突起を取り囲む十字靱帯にピロリン酸カルシウム結晶が沈着する。高齢女性に好発。後頭部痛、後頸部痛、頸部回旋痛を訴えるが、頸部前後屈は可能なことが多い。発熱、白血球増多、CRP上昇。CT検査で歯突起周囲の靱帯に石灰化を認める。D.D ;髄膜炎、硬膜外膿瘍、リウマチ性多発筋痛症、側頭動脈炎、椎間板炎など
 ・石灰沈着性頚長筋炎:頚長筋にハイドロキシアパタイトの沈着が起こる2次性炎症性腱炎。発熱、白血球増多、CRP上昇。レントゲン頚椎側面像で後咽頭間隙の拡大、CTで石灰化、MRIT2強調で高信号

6.小児の頸部痛
 ・小児頚椎椎間板石灰化症:6-13歳に好発。著明な頸部痛で発症。男児に多く中下位頚椎間に多い。自発痛あり。原因不明。時に疼痛性に斜頸をきたすことあり。D.D環軸関節回旋位固定は自発痛が無く可動時痛のみ。治療は消炎鎮痛治療と頚椎カラー。1ヶ月ほどかかる。石灰が脱出してヘルニアや頚髄症を発症することがある。

7.高齢者の頸部痛
 ・様々な疾患の可能性がある。軽微な外傷で、環軸椎骨折や頚椎脱臼、脱臼骨折が起こりうる。

参考文献:Orthopedics 整形外科外来における他科疾患を見逃さないコツ 3.2017
 
 
6日(木) 本日のコラム131 皮膚疾患と整形外科的症状

・関節症性乾癬:非リウマチ性の炎症性関節症。仙腸関節、末梢の関節。滑膜の炎症では無く付着部炎。発症から2年以内に骨びらんや関節変形をきたす。
・掌蹠膿疱症性骨関節炎:掌蹠に無菌性膿疱が多発。10%に関節炎。胸肋鎖関節が最多。その他、脊椎、仙腸関節、,末梢関節。
・SAPHO症候群:滑膜炎、座瘡、膿疱症、骨化症、骨炎。定義が曖昧で広範。
・好中球性皮膚疾患
 1)ベーチェット病:口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍、皮膚症状、外陰部潰瘍、眼症状。半数以上で関節炎を合併。膝、足関節など下肢に好発。
 2)Sweet病:発熱、末梢好中球増多、好中球浸潤性紅斑。皮膚は圧痛を伴う隆起性浮腫性紅斑が全身に多発する。
 3)壊疽性膿皮症:好中球が真皮に浸潤し、潰瘍を形成。下腿に好発し有痛性の紅色丘疹・膿疱・水疱・血疱などで始まり、これが融合し潰瘍となり次第に拡大する。
 4)結節性紅斑:様々な原因による脂肪織炎の一種。主として下腿伸側に圧痛を伴う浸潤を触れる紅斑が多発する。

・関節リウマチの皮膚症状
 リウマチ結節、リウマチ血管炎(主に下肢を中心に浸潤性紅斑、紫斑、血疱、潰瘍などが手背、関節伸側などに対称性に生じる)、・皮膚骨膜肥厚症:皮膚の肥厚、太鼓ばち状指、四肢遠位骨の骨膜性肥厚。四肢関節痛、関節腫張。根本的治療なし。
・神経線維腫症1型神経線維腫、側弯、後弯などの脊椎変形

・感染症
 1)帯状疱疹
 2)伝染性紅斑:ウイルス性発疹症では関節痛を起こすことがあるが、伝染性紅斑では,その頻度が高い。

参考文献:Orthopedics 整形外科外来における他科疾患を見逃さないコツ 3.2017
 
 
7日(金) 本日のコラム132 手にみる他科疾患

 手の腫れをきたす疾患
 1.関節リウマチ(RA)
 2.RS3PE症候群

上肢の神経障害の鑑別
1.手根管症候群
 1)特発性
 2)特発性以外の原因
 ・透析
 ・糖尿病
 ・RA
 ・甲状腺機能低下症
 診断)
 3)手根管症候群と鑑別すべき他科疾患
 ・Cheiro-oral syndrome (手掌・口症候群);一側の手指(指尖部)と口周囲の異常感覚。視床の梗塞。早期はMRIの拡散強調が有用。

2.肘部管症候群
 1)鑑別すべき疾患
 ・C8神経根症
 ・遠位CSA
 ・MMN

3.橈骨神経麻痺
 1)鑑別すべき疾患
 ・脳梗塞による偽橈骨神経麻痺

4.前骨間神経麻痺と後骨間神経麻痺
 1)前骨間神経麻痺
 2)後骨間神経麻痺
 3)鑑別すべき疾患
 ・遠位型CSAにおけるC8障害

5.遠位型CSAによるC8障害およびC8神経根症

6.神経痛性筋萎縮症(neuralgic amyotrophy;NA)

 1)NAと鑑別すべき疾患
 ・近位型CSA

その他の神経障害を呈する他科疾患
1.CIDP(慢性炎症性脱髄性多発神経炎、chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy: CIDP)
2.ギラン・バレー症候群(GB)
3.Pancoast腫瘍
4.Chiari奇形
   
参考文献:Orthopedics 整形外科外来における他科疾患を見逃さないコツ 3.2017
 
 
8日(土) 本日のコラム133 的確な診断と治療を行えば、早く治ります

 当たり前のことですが、正しい診断を行って、正しく治療するのが、早く治る近道です。ところが世の中、そうは上手くいかないもので、間違った診断で、結果的に間違った治療を受けてなかなか治らないということもあります。これは不幸としか言えないです。医師の腕もまちまちですから、やはり腕の良いところに行くのがよいです。

 ところが、本当に腕の良い先生を見つけるのは大変です。多くは口コミなのでしょうが、最近では雑誌などでも特集が行われています。それでは口コミがどの程度、信憑性があるのでしょうか。これもまた実際のところ、行ってみたらそうでもないこともあります。また、雑誌などの特集は、当てにならないことも多く、選択はとても難しいといえます。

 こういったことから、何カ所も医療機関を受診する患者さんが出てきます。自分自身で信頼できる医師を見つけるのは大変なことなんだと思います。
 
9日(日)
 
10日(月)本日のコラム134 膝靱帯損傷に対する保存療法 適応と限界

 1.ACL(前十字靱帯)損傷に対する装具療法
 適応:40歳以上で不安定性が少なくレクレーショナルレベルまでの運動負荷の症例
 適応外:10歳代は保存療法の適応外。ハイアスリート。

 保存療法手法:前方制動ストラップ付き装具、一週間後までは、可動域を10-90度、以後拡大。部分荷重は3週より開始、全荷重は5週間後。

 2.PCL(後十字靭帯)損傷
 適応:原則として単独損傷は装具とリハビリテーションによる保存治療を行います。部分断裂が多く、経時的に靱帯の連続性が再獲得されやすい。

 3.PLC(膝後外側支持機構)損傷

 PLC(膝後外側支持機構)は、膝外側側副靱帯、膝窩腓骨靱帯、膝窩筋によって構成され、直達外力による膝関節内反または過伸展で外旋力が加わって損傷されます。単独損傷はまれで、膝前十字靱帯や後十字靱帯との合併損傷が多くみられます。

 診断:急性期は膝外側関節裂隙に圧痛があり、広範な腫脹と皮下血腫を認めることが多い。PLS損傷では内反動揺性と回旋動揺性のいずれかあるいは両方が見られることが多い。

 治療:急性期のものは可及的速やかに一次修復術を行います。陳旧性は手術法が確立していない。

 4.MCL(内側側副靭帯)損傷

 GradeI,IIは保存治療。GradeIIIは手術療法と保存療法に優位な差を認めない。(ただし60%に外反不安定性が残る)
 保存療法の適応外:脛骨側が損傷した場合は受傷早期の手術療法を考慮する。保存療法による回復に限界あり。

 5.LCL(外側側副靱帯)損傷
  単独損傷はまれで、複合靱帯損傷であることが多い。膝外側後方に痛みと腫れ。内反ストレスで動揺。MRIで複合靱帯損傷の有無をチェック。
 10日(月) 本日のコラム134 膝靱帯損傷に対する保存療法 適応と限界

 1.ACL(前十字靱帯)損傷に対する装具療法
 適応:40歳以上で不安定性が少なくレクレーショナルレベルまでの運動負荷の症例
 適応外:10歳代は保存療法の適応外。ハイアスリート。

 保存療法手法:前方制動ストラップ付き装具、一週間後までは、可動域を10-90度、以後拡大。部分荷重は3週より開始、全荷重は5週間後。

 2.PCL(後十字靭帯)損傷
 適応:原則として単独損傷は装具とリハビリテーションによる保存治療を行います。部分断裂が多く、経時的に靱帯の連続性が再獲得されやすい。

 3.PLC(膝後外側支持機構)損傷

 PLC(膝後外側支持機構)は、膝外側側副靱帯、膝窩腓骨靱帯、膝窩筋によって構成され、直達外力による膝関節内反または過伸展で外旋力が加わって損傷されます。単独損傷はまれで、膝前十字靱帯や後十字靱帯との合併損傷が多くみられます。

 診断:急性期は膝外側関節裂隙に圧痛があり、広範な腫脹と皮下血腫を認めることが多い。PLS損傷では内反動揺性と回旋動揺性のいずれかあるいは両方が見られることが多い。

 治療:急性期のものは可及的速やかに一次修復術を行います。陳旧性は手術法が確立していない。

 4.MCL(内側側副靭帯)損傷

 GradeI,IIは保存治療。GradeIIIは手術療法と保存療法に優位な差を認めない。(ただし60%に外反不安定性が残る)
 保存療法の適応外:脛骨側が損傷した場合は受傷早期の手術療法を考慮する。保存療法による回復に限界あり。

 5.LCL(外側側副靱帯)損傷
  単独損傷はまれで、複合靱帯損傷であることが多い。膝外側後方に痛みと腫れ。内反ストレスで動揺。MRIで複合靱帯損傷の有無をチェック。
 
 
11日(火)本日のコラム135 膝靱帯損傷に対する保存療法 適応と限界 2

膝単独靱帯損傷 治療方針 
 ACL損傷  手術は受傷およそ2-3週間後に行う。
 MCL損傷  急性期は早期リハビリ+保存療法
 PCL損傷  後方落ち込みが健側比10mm以下は保存療法。10mm以上は、後外側構成体(PLC)の損傷を疑い、可及的速やかに後外側構成体の修復を行う。同時にPCL再建術も考慮。
 PSL損傷  可及的速やかに一次修復を行う


 膝複合靱帯損傷

 治療の基本:PCLとMCLは高い治癒能力あり、ACLとPSLはそれほどではない。

 
膝複合靱帯損傷 
ACL・MCL損傷  最も多い組み合わせ。急性期はMCL損傷治療を優先。複合靱帯損傷であっても単独損傷と同様の治療方針で臨む。 
・GradeI,IIのMCL損傷は装具を装着し早期からリハビリ。GradeIIIはギプス固定を2-3週間し、その後、装具に移行し、可動域訓練。関節可動域が十分改善されてから、前方動揺性を評価して再建術を判断。(可動域制限がある場合はACL再建術後に関節拘縮を起こす原因となる)
ACL・PSL損傷  急性期のPSL損傷は可及的早期に修復術が必要。受傷後、約2週間以内にPSL修復とACL再建術を同時に行うことが推奨。
PCL・MCL損傷   いずれも治癒力が高い靱帯なので、保存的に治癒する可能性が高い。急性期はMCLの治療を優先。治療方針はMCL単独損傷に準じて行う。関節可動域が十分回復した後に、後方動揺性の評価、PCL再建を検討。
PCL・PLS損傷  PSL損傷は可及的早期に修復術を行う。脛骨付着部裂離骨折を起こしているPCL損傷は骨接合術を同時に行う。PCL実質部断裂は、PLS修復と同時または、後方動揺性を評価した後に行うか決める。
 ACL・PCL・MCL/PLS損傷  3つ以上の靱帯がGradeIII損傷。整復位保持はPCLに依存。PCLの再建を優先。ACLと同時にはしない。(同時は関節拘縮を起こし易い)PCL再建後、3ヶ月以上経ってから前方動揺性を確認して手術を判断。PSL損傷を合併している場合は、必ず同時にPSL修復術を行う。外反動揺性が残存した場合はMCL再建術も考慮する。
 

 12日(水) 本日のコラム136 変形性肩関節症

 変形性肩関節症の原因としては、1次性(原発性)、関節リウマチ、上腕骨頭壊死、骨折、反復性肩関節脱臼、化膿性肩関節炎などがあります。

 症状は、夜間痛、動作痛があり、可動域制限のために日常生活動作に大きな支障をきたすことがあります。レントゲン検査やCTでは関節裂隙の変形、狭小化を認めます。

 治療は、痛みのコントロール、可動域の改善など理学療法を含めた保存治療を行います。具体的には、消炎鎮痛薬、温熱治療、可動域訓練、ヒアルロン酸の関節内注射など。変形性関節症に伴って、肩関節の拘縮が生じ、これによる痛みを改善させるために可動域訓練はしっかりと行うようにします。

 日常生活では、中等度以上の負荷作業を行うときは脇を締めて肩関節内旋位でします。就寝時は肘後方に枕やタオルを置き、肩関節が伸展しないようにします。

 手術:解剖学的人工関節置換術は修復不能の腱板断裂、または著明な骨欠損が合併していないことが条件となります。腱板修復不能例で、自動挙上可能な例は人工骨頭置換術を、偽性麻痺肩(自動挙上90°未満)はリーバース型人工肩関節置換術を検討します。関節窩骨欠損合併では、関節窩を置換しない人工上腕骨頭置換術もしくはリバース型を行うか検討します。
 
 
13日(木)  本日のコラム137 変形性肘関節症

 原因:加齢による退行変性、肘関節内骨折・脱臼、痛風・偽痛風、骨壊死、離断性骨軟骨炎、感染後、関節リウマチ、結核など。加齢のみで治療を要する変形性関節症が生じることはまれで、スポーツや労働などにより慢性的に肘関節に負荷がかかっていることが多い。

 症状:最大屈曲・伸展時の疼痛が特徴。典型例は伸展障害。引っかかり感、ロッキングが起こることあり。肘部管症候群を合併しやすい。

 治療:保存的治療が基本。骨棘形成による可動域制限はリハビリテーションなどでは改善しない。

 手術:可動域制限となっている骨棘を除去する。骨棘が小さく遊離体などは鏡視下手術。内反肘は矯正骨切り術も行う。高齢者で疼痛や可動域制限が強く関節裂隙の狭小化が著しい場合は人工肘関節置換術を行います。
 
 
14日(金) 本日のコラム138 部位別骨塩定量検査(腰椎・大腿骨DEXA法)における差異

 四月以降、DEXA法による腰椎・大腿骨骨塩定量検査を導入しました。腰椎と大腿骨頸部の測定値は様々で、特に一致する傾向は見られません。腰椎が大腿骨に比し骨塩量がかなり多い場合もあれば、またその逆もあります。文献によりますと、骨折が起こりやすいかどうかは、その部位の骨塩量を調べる必要があり、高齢者で問題となっている腰椎、大腿骨の両者をDEXA法で調べるのが良いとしています。

 当院では、骨粗しょう症ガイドラインに沿って、両方の骨塩量を調べていますので、骨折が起こりやすいか否かを判定することができます。
 
 
15日(土)  本日のコラム139 変形性母指CM関節症(変形性母指手根中手関節症)

 CM関節は、中手骨と手根骨が成す関節のことです。母指のCM関節は他の部位と異なり、変形性関節症が起こりやすく、進行すると亜脱臼となります。

 45歳以上の女性の3分の1にレントゲン上、変性がみられ、その50%に症状が出ているとされています。つまむ動作を繰り返すことにより関節に力が掛かり変形していくと言われています。

 治療:保存治療では、アセトアミノフェン、NSAIDsなどに加えて、装具療法、関節内ステロイド注射がありす。関節内ヒアルロン酸注射は有効と海外で報告があるが、日本では保険適応外となっています。装具は、2-3ヶ月、就寝中も含めてできるだけ持続させるようにします。強く締めつける必要はありません。これら保存治療に抵抗する場合は、手術を考慮します。
 
16日(日)
 
17日(月) 本日のコラム140 変形性股関節症 人工股関節全置換術(THA)手術適応は?

 1次性の変形性股関節症は概ね、20%以下、2次性が80%。日本では2次性のうち寛骨臼形成不全(AD)が80%、両側のADが過半数となっている。ADが高度であるほど、発症年齢が低い。OAの経過は、関節適合性が良好で、症状が少なく、レントゲン的にも変化の少ないものは進行が遅い。CE角が10%未満で50歳以上はOAが進行しやすい。


<手術適応>
 40歳未満は第1選択にはならない。関節温存術が非適応の場合のみ例外的に選択
 40〜50歳は、関節温存術とTHAの双方の利点・欠点を説明し選択する。
 50歳代以上は、THAが第1選択ではあるが、全身状態をよく勘案し決定する。

 THAの長期成績 生存率は20年以上がセメントレスで95%、セメント使用で93%と良好。
 
 
18日(火)  本日のコラム141 人工膝関節置換術(TKA)のタイミング

 保存治療を行っているにも関わらず膝OAが進行し、歩行の不自由を感じており、痛みのために外出などの頻度が減ってきている場合は、手術を推奨するタイミングとされています。実際には、日常生活において困る程度は個人差があり、患者サイドに立って判断します。

 まず保存療法(消炎鎮痛剤、ダイエット、運動療法、足底板、ヒアルロン酸関注など)を行います。

 手術には、人工膝関節置換術(TKA)、人工膝関節単顆置換術(UKA)、高位脛骨骨切り術(HTO)があります。60歳以上ではTKAもしくはUKAを、60歳以下では、高位脛骨骨切り術を選択する傾向があります。逆に50歳代と超高齢者には負担の少ないUKAを行うとする意見もあります。

 UKAの適応は、膝内側に限局した変形性膝関節炎、骨壊死症、関節可動域は屈曲拘縮≦15度、屈曲角度110度以上、全膝関節靱帯が温存されている、アライメントとしてストレス撮影でFTA180度まで矯正されることとしています。「Bone on bone contact」の状態、すなわち内顆において上下の骨がぶつかり、関節裂隙が消失している(外顆は保たれている)ものは、UKAのよい適応とされています。
 
 
19日(水)  本日のコラム142 高位脛骨骨切り術の適応と手術のタイミング

 FTA(膝外側角)185度以下で屈曲拘縮15度以下:open wedge 高位脛骨骨切り術(全十字靱帯機能が正常であること)
          185度以上で屈曲拘縮15度以上:closed wedge 高位脛骨骨切り術

 手術適応:膝痛があり、保存療法でも十分改善せず、日常生活では階段の昇降で痛みが強い、スポーツ時に強い痛みが出るなど支障の程度を勘案して適応を考慮します。
 
 
20日(木)  本日のコラム143 おいしいご飯と創傷治療

 おいしいご飯を炊くには水加減がとても重要です。水が少ないと固いですし、多いとベチャベチャでこれまたおいしくありません。同じことが傷の治療でも言えます。創傷治療においても、水が多いと創が溺れたようになりますし、少ないとミイラのように乾燥してしまいます。

 新しい創傷治療は、この水分コントロールを創に応じて適切に行います。薬局やコンビニで売っているハイドロコロイドの被覆材は、清潔で浅い擦過創に使うようにします。それ以上、深いものや汚染された創は医療機関で治療を受ける方がよいと思います。
 
 
21日(金)  本日のコラム144 変形性足関節症

 病期分類と保存療法後改善しない場合の処置
 stage1.関節裂隙の狭小化を認めない→不安定性ありは外側靱帯の再建。滑膜増生は鏡視下滑膜切除術
 stage2.関節裂隙の狭小化を認めるが、軟骨下骨組織の接触を認めない→下位脛骨骨切り術
 stage3a.軟骨下組織が内果関節面のみ一部接触している→下位脛骨骨切り術
 stage3b.軟骨下組織の接触が一部天蓋関節面に達している
 stage4.関節面全体にわたって関節裂隙が消失している。

 保存療法:NSAIDsや外用薬、温熱治療、外側ウェッジ挿板。

 60歳以上stage3b以上で6ヶ月間の保存療法でも症状が改善しない場合は人工足関節の適応あり。60歳以上でもスポーツや農作業など活動性が高い場合は、人工足関節では無く、足関節固定術などを選択する。また感染性足関節症や内外反変形が15度以上の高度変形例も行わない。
 
 
22日(土) 本日のコラム145 神経学的所見をどう読むか1

 整形外科では、一通り神経学所見をとることができますが、神経内科医ほどそれらの造詣が深いとは言えません。そこで基本的なことも含めて、もう一度、整理しておきます。

 脱力(+)の患者が知覚障害(+)、深部腱反射(低下):末梢神経障害
 脱力(+)  〃  知覚障害(−)、深部腱反射(すべて亢進):筋萎縮性側索硬化症(ALS)
 脱力(+)  〃  知覚障害(−)、深部腱反射(低下):脊髄前角障害、神経筋接合部障害、筋原性疾患
 
23日(日)
 
24日(月)本日のコラム146  神経学的所見をどう読むか2

 
主な筋節:髄節と神経根と支配筋 
 C5  三角筋(肩の外転) 上腕二頭筋(肘の屈曲)
 C6  腕橈骨筋(肘関節の屈曲) 手関節の背屈
 C7  上腕三頭筋(肘関節の伸展) 手指の伸展 手関節の屈曲
 C8  手の屈曲
 T1  手指の外転
 L1-2  腸腰筋(股関節の屈曲)
 L3-4  大腿四頭筋(膝関節の伸展)
 L4<L5  前脛骨筋(足関節の背屈)
 L5  母趾伸筋(母趾の背屈) 中殿筋(股関節の外転)
 S1  母趾屈筋(母趾の屈曲) 腓腹筋(足関節の底屈)
 
 
25日(火) 本日のコラム147 神経学的所見をどう読むか3 徒手筋力テスト(manual muscle testing;;MMT)

 筋力のおよその目安として徒手筋力テストがあります。(MMT)0−5の6段階で評価します。

 MMT5 normal 強い抵抗+重力に抗して全可動域で動く
 MMT4  good  中等度の抵抗+重力に抗して全可動域で動く
 MMT3 fair    抵抗なしなら重力に抗して全可動域で完全に動く
 MMT2 poor   重力を除けば全可動域で動く
 MMT1 trace  関節は動かないが、筋収縮は認める
 MMT0 zero   筋収縮もまったく認めず

 *可動域が50〜100%未満でマイナスを、50%未満なら一段か低いランクでプラス表記
 
 
26日(水) 本日のコラム148
 手術適応について

 他院で手術を勧められ、当院に相談されるケースがあります。手術には絶対にした方がよいもの(絶対的適応)、症状との兼ね合いで手術を勧めるもの(相対的適応)、しなくてよいものに分かれます。それぞれの疾患である程度は治療のガイドラインや手術適応のコンセンサスが得られていることも多いのですが、年齢や他の疾患の有無・程度、生活状況などさまざまですので、こういった諸条件を十分勘案することが大切です。

 手術をするにしても保存治療を行うにしても、しっかりとした判断が必要です。もちろん最終的には、患者さん自身がどうするか決めるのは言うまでもありません。

 

 
27日(木)  本日のコラム149 手術適応について2

 手術適応に関して、積極的に手術を勧める先生もあれば、そうでない先生もあります。相対的な手術適応には、日常生活をどの程度希望されるのかによって異なってきます。例えば、脊柱管狭窄症の場合、10mほどしか歩けなくても家の中で生活する分には支障が無いということもあります。逆にテニスやゴルフができるようになりたいと願う人もあります。このような希望により、どの時点で手術を行うかは変わってきます。

 症状も それほどではないのに、画像所見だけで手術を決めることはあってはなりません。病気の性状、本人の希望を十分にくみ取って配慮していくことが大事です。
 
 
28日(金) 本日のコラム150 手術適応について3

 手術適応の範囲を逸脱して、無理に手術を勧める先生や、逆に手術を勧めず保存治療に固執する先生に当たると問題です。実際にセカンドオピニオンで相談を受けて、どう考えても手術適応が無いようなこともあります。(手術適応が全くないのでは無く、かなりきわどく拡大解釈したら手術というケースが怖いです。)

 手術は行えば、後戻りできません。ですから手術を勧められた方は、セカンドオピニオンを求めて信頼できる先生に相談することをお勧めします。
 
29日(土)ゴールデンウィークは暦どおり診療いたします。日曜・祝日はお休みとなります。
30日(日)